今日もめくるめかない日

小説

自分の本棚、好きな本しかない

最近、本棚の整理をしました。ずっと著者の名前順にしていたけど、なんとなく版元ごとに並び替え。本当はもっと横に長い本棚がほしいとつねづね思っているけれど、部屋の広さ的にむり、いつか死ぬまでに書斎というものを自宅に置きたい。そうするには賃貸で…

小説新潮5月号&6月号感想

短編は無限のちからを持っているとおもう。いや、そもそも小説自体が無限のちからを持っているといっても過言ではないのだけれど(そんなこといったら、この世の創作物すべて無限のちからを持っているはずなんだけれども)。 短編というのは、まあ短い話なの…

文藝夏季号(怒り特集、あくてえ、ふるえるのこと)

怒ること 「怒り」特集 あくてえ/山下紘加 ふるえる/彩瀬まる 怒ること 最近、家でも職場でも怒る日が多かった。夫とは喧嘩が勃発し一カ月ほど膠着状態、職場では何度言ってもわかってもらえないということが続いて、ひたすらきりきり怒っていた。 怒る自…

鳩の栖/長野まゆみ

名は体をあらわす、という言葉があるけれど、どんな名であっても、どんな体であっても、「その人」が「その人」であれば、それでじゅうぶんなのだよな、というようなことを考えている。こわがりだったり、見栄っぱりだったり、少しいじわるだったり、やさし…

とてもよかった本15冊(2021年)

写真はとくに内容とは関係ないです 2021年も残すところあと二週間ほど、今年は本当にどこにも行かず、仕事をするか家で寝てるか本を読んでいるか、という感じだった。なのでここ数年のあいだでは、いちばん読書量が多い年だったように思う。そんなわけなので…

冬に読みたい小説など

十二月である! 寒いのはとても苦手だ。起きるのもつらいし寒いというだけで元気がなくなってしまう。けれど、冬に読みたくなる小説をさがしてみれば、寒さも愛しくなるのではないかと思ってまとめてみることにした。べつに夏に読んだっていいのだけれど、読…

ブレークポイント設定!デバッグスタート!(偶然の聖地/宮内悠介)

パーカーのフードを深くかぶって、伸ばしっぱなしの前髪からときおり見せる鋭い目、それじゃあ視力低下待ったなし、というくらいの真っ暗な部屋で、パソコンのモニターだけが青白く(あるいは黄緑色とかに)光っていたりして、そのモニターの前でなんかぶつ…

生むこと(夏物語/川上未映子)

昔、といってもほんの数年前まで、とくに大きな疑問も持たずに、(おそらく)まわりにいる人たちが自然にそう思ったように、「いつか子どもがほしい」と考えていた。 そういう考えは決して間違いではないだろうし、必ずではないにしろ、自然と芽生えてくる感…

分断の狭間(アンソーシャル ディスタンス/金原ひとみ)

アンソーシャル ディスタンス/金原ひとみ ストロングゼロ デバッガー コンスキエンティア ほかの作品について アンソーシャル ディスタンス テクノブレイク アンソーシャル ディスタンス/金原ひとみ この一年半、「コロナが落ち着いたら」「コロナが収束す…

うつくしい愛のはなし(緑と楯・恋シタイヨウ系/雪舟えま)

凝り固まったものを取っ払って、いろんなことを自由に考えることはむずかしい。むずかしいけれど、そういうふうになるときがたまにある。なんでもできそうな気がする無敵感、どこにでも行けそうな解放感、やかましいいろんなノイズや簡単に口にできる「正義…

スカートと絶滅(スカートのアンソロジー/絶滅のアンソロジー)

スカートのアンソロジー 明けの明星商会(朝倉かすみ) そういうことなら(佐原ひかり) くるくる回る(北大路公子) スカート・デンタータ(藤野可織) 半身(吉川トリコ) 本校規定により(中島京子) 絶滅のアンソロジー 絶滅の誕生(東山彰良) 梁が落ち…

光る小説(ムーンライト・シャドウ/吉本ばなな)

小説は、ときどき光る。まばゆく光るのではなくて、ぼんやり暗がりのなかできれいに光る。もちろんこれは比喩だけれど、でもそういう一冊が、本棚のなかにいくつかある。何度も読み返したくて、きっと簡単には手放せないものなのだろうなと思う。 そんな本の…

ペリカンに出会った日/記憶に残っている、あの日(kaze no tanbun 夕暮れの草の冠)

ペリカンが、いきなり目の前に降りてきたことがある。動物園内などではなく、そのへんの道端である。小学二年か三年くらいのことだったか、なにか小学校のイベントのために妹と二人で歩いていた。そのイベントがなんだったのか思い出せないが(どんど焼き? …

いつまでも、ずっと美しい子供(クララとお日さま/カズオ・イシグロ)

実はカズオ・イシグロの作品を読むのははじめてで、もちろん名前を知ってはいたけれど、なかなかタイミングが合わずのままできて、今回「クララとお日さま」を手に取った(すごくネタバレ含みますので未読の方はご注意ください)。 www.hayakawa-online.co.jp…

文學界2021年5月号(悪い音楽・Phantom など)

先日8月号が発売されたけれど、やっと文學界5月号を読めた……。まあ1月号とかまだ読めてないんだけど。文學界にかぎらず、さすがに毎月は買えないけれど気になる特集や好きな作家が出ていれば文芸誌を買っている(なによりコスパがよい)。 いつもたのしみな…

読書遍歴(2021年上半期)

なんと今日は6/30、つまり一年の半分が過ぎたということになるわけだけれども、多くの大人たちが説いている「歳を重ねるたび時間が経つのが早くなる」論、まっさか〜それ言えば大人になると思ってるんでしょあたいは信じないと決めていたのに、つい「去年よ…

隠したいこと、隠さないこと(ブラザーズ・ブラジャー/佐原ひかり)

ここ一カ月ほどたのしみに、とってもたのしみにしていた本がやっと手元にやってきて、夢中で読んだ。 ブラザーズ・ブラジャー/佐原ひかりすごくとりとめのなさそうな感想になりそうですが、とにかく愛を、愛をこめて感想を書く……!!!(すごくネタバレしま…

見ること(ミズナラの森の学校/藤代泉)

文藝2021夏号(河出書房新社)を読んで。 いちばんよかったのは「ミズナラの森の学校」(藤代泉)。 www.kawade.co.jp この夏は蚊帳をつらなかった。天から吹き流れるようなあの大きい蚊帳を。つらないまんまに、夏がすぎてしまった。 (中略)ここは東北で…

桜桃忌/太宰治

桜桃忌が近いので太宰治のことを書こうと思う。 www.city.mitaka.lg.jp 実はわたしは昔から太宰治が好きなのである。太宰治といえば「何回も自殺する暗いひと」というイメージがあるかもしれない。たしかにそういう一面もある(というかこういう一面の印象が…

生活と不思議(レースの村/片島麦子)

一行目を読んだとき、「あっすきだ」となる小説にときどき出会う。わたしはこれをひと読み惚れとよんでいて、昨年この出会い方をしたのが「レースの村」(片島麦子/書肆侃侃房)、初出は同出版社から出ている文学ムック「ことばとvol.1」。文芸誌の良さに気…

ナイルパーチの女子会/柚木麻子

だいたいにおいて、この世の中は不確かなものが多すぎる。正しさと間違い。幸福と不幸。感情、愛情、友情。どれも明確なかたちはないけど、あるとされているもの。指標にされるもの。そして縋りたくなるもの。 かたちがないとはなんて厄介だろうとつねづね思…

しるし、暴力、美しさ、本当のこと(ヘヴン/川上未映子)

現代の作家で好きなひとを挙げろと言われたら、まず最初に川上未映子を挙げる。文体、選び取るテーマ、訴求力、ことばの美しさ、つむがれる物語、どれをとっても、たいへんうっとり、ぐさぐさ、とにかくもう大好きなのである。そんななかでも「ヘヴン」、こ…