今日もめくるめかない日

さよならが苦手なひとと電話した

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 SNSに向いていないわたしにも、空気感が合うというか、距離がちょうどいいあんばいというか、そういったTwitterのフォロワーさんたちが何人かいて(勝手にこっちが思っているだけだったらごめん……)、先日そのなかのおひとりと、熱い語りみたいなのをDMでして、その流れの延長で、電話をすることになった。

 電話といっても、ボイチャ(ボイスチャットというものがあるんだって、今時!)というツール、で番号やLINEを交換せずとも電話ができるという、すぐれたものを教えてもらい、それで電話をすることに。

 いつ暇ですか、この土日大丈夫そうです、では今日の二十一時半くらい、という会話をした数時間後、それでは今から電話をしますよというときに、たぶん電話がつながってるんだけど、もしもし言うまでのハードルの高さなに。こ、これつながってるね、もしもし言えばいいんだよね、いやこの状況、カラオケ行ったときに「なんでもいいから曲入れて」としょっぱな歌えと言われるよりも緊張する。その電話ができるツールではチャット機能なんかもついていて、「いましゃべってますか」「もしもしと言ったら聞こえる状態ですか(でもなにも言わない)」「電話のようにできますか」「スピーカーはオフにしたいです」などテンパっているわたしのコメントが連続で投下される。このあいだおよそ十分くらい、もしもし言うまでにどんだけ時間かけてんだ。

 

 ありがたいことに相手のほうから最初のことばを発してくれて、なんとか会話が成功し、もしかしてこういうのはじめてですかと訊かれたからええはじめてです、と答えると、「僕は世代だからよく使います」という返事。

 せ、世代とな。まさか、(勝手に)わたしと同じくらいだと思っていた、フォロワーが、想像よりも下……年齢をおそるおそるたずねたら、なんと十歳も下だった。

 十歳!!!職場は年上だらけなので、ついでに夫も六つくらい上(薄情だけど、夫との年齢差いつもわからなくなる)、なんか、なんだろね、十歳下の男の子と、今わたしは電話をしているのか……と思った瞬間の、いやそう思ってしまったからこそなのか、妙にただよう犯罪臭。いったいなんで。

 とはいえもともと創作というきっかけで出会ったわたしたちは、小説のはなしを存分にして(互いの作品についてなど。た、たのしい)、ほかにもシンエヴァのはなしをしてみたり、下書きにしたためている恥ずかしいツイートなどを見せ合ったり、そんななかで印象に残ったのが、「さよならが苦手」と言っていたことだった。

 なぜそのはなしになったんだっけ、創作についての延長線上のことばだったか、鮮明に覚えていないけど(覚えてないの申し訳、でもその日なんと三時間も電話していたのです)、とにかくそういうことを言っていて、でもなんかやさしいひとだなあとは思わなくて(ごめん笑)、生きづらそうなひとだなあと思ったんだった。

 その生きづらそうな感じが、生きづらいという自覚がなくても、でもそういう部分があるのだということを、だれかに知ってほしそうな、伝えようとしているような、そんな雰囲気を、そのひとの作品からは感じることがあって、そのひとは、自分のかたちをかたちにしようとしているのかなあとか思ったりして、いいなあなど、感じたり。がんばろうね。

 

 それにしても同じ日本とはいえ遠い地に住んでいる、顔も名前も知らないひとと、すごく奇跡的な確率でフォロワーになって、実際に、この耳の向こうに、いる、を実感したのだけど、一方でその存在が、まぼろしのようにも思えたり。

 普段、自分がだれかに話すような内容じゃないからか(基本的に創作のはなしはTwitterでしかしないから)、しゃべっている自分も、自分じゃないみたいというか、でも思い返すと、あれはやはり自分であって、なんか照れくさいような、ふしぎな時間を過ごした。

 

 年齢は十離れているようだけど、創作のはなしをしているとジェネレーションギャップを感じることはあんまりなかった、というのを会話の後半でしたときに、「カラオケでうたう曲とか言えばジェネギャ感じるかも」と言っていて、いやジェネギャって言ってる時点でジェネレーションギャップ。もう十分、と思っていたら、「僕昔の曲もけっこう知ってます!アジカンとか」、いやアジカンを昔って言うなこのやろう……ってそこだけは叱ったよ。

 ちなみにわたしのカラオケでうたう定番はポケットビスケッツYELLOW YELLOW HAPPYだけど(これはもう、なつうた、というものに入るんだろか)、伝えたら、「知ってます!」「あ、よかったあ」って、おいもう会話終了しちゃうじゃんか、そういうとこだよジェネギャよう。まあ、なんだかんだそういうのもいいんだけど、向こうの定番訊くのを忘れた気がする(訊いた?)。

 

 そんなかんじでいろんな会話に花を咲かせて、それじゃあそろそろというときに、わたしにはひとつ思ったことがあって、さよならが苦手と言っていたから、電話を切るのも苦手なんじゃないか、うむさすがここは年上、「電話を先に切るのも苦手でしょう」とすごくお姉さんぶって言ったら(少し江國香織入ってた)、「あ、それは別に平気です」と、めちゃくちゃあっさり、ひゅんっと、風を切るように、というか風とともに去っていくように、ほんとうに平気そうな雰囲気を出すものだから、なんかそこではじめて、「十歳下の男の子感」をかんじたよっていうはなし。