今日もめくるめかない日

女による女のためのR-18文学賞/小説新潮5月号

f:id:mrsk_ntk:20210511100647j:image

 文学賞は数あれど、それぞれの賞には毛色があって、その毛色がばちこん自分に合う賞は限られる。なかでもわたしが信頼している(受賞作ならびに最終候補作はきっとおもしろいはずと信じてやまない)賞が「女による女のためのR-18文学賞(新潮社)」である(以下R-18文学賞)。

 最初からこの賞の存在を知っていたわけではなかった。好きになる作家がこの賞出身の方が多いので、自然と注目するようになった(窪美澄さん、山内マリコさん、彩瀬まるさんなど)。
 
 R-18文学賞は設立当初こそ「女性が書く、性をテーマにした小説」を募集していたが、第11回よりリニューアル、今は「女性ならではの感性を生かした小説」をテーマにした作品を募集している(また、第20回から応募資格が女性→性自認が女性の方となった)。
 官能描写の有無は問われなくなったけれど、あってもなくても大事なのは「女性ならではの感性」、これがたいてい、ばちこんわたしに刺さってくるんである。

 文章で読む官能は好きだ。わたしは映像で官能をたのしむことがほとんどないのだけれど(たとえば映画なんかで「そういう」場面が出てきたときは、ちょっと目のやり場に困ってしまう)、小説に出てくる官能にはわりと前のめりだ。ただ官能ならすべていいかと問われたらそういうわけではなく、そういう意味で信頼できるのが「R-18文学賞」なのだ。

 わたしが好きだと思う文体の条件のひとつに「色気」がある。色気、それはなにもベッドシーンに限ったことではない。たぶん、表現力なんだろうか、つかう言葉や文章のリズムなんかがつながってくるのだと思うけど、たとえばいすに座る、食事をする、電車に乗る、家に帰る、なんてことのない会話をする(ときのしぐさ)などの描写ひとつにも、色気というものが漂っている作品がいくつもある。
 

www.shinchosha.co.jp

 たとえば先に挙げた窪美澄さん。わたしが好きな作品のひとつが「よるのふくらみ」(ちなみにR-18文学賞を受賞した「ミクマリ」は「ふがいない僕は空を見た」に収録)。
「よるのふくらみ」……って、まずタイトルからして色気がすごいと思うのですが、うまく伝わるだろうか……。「よる」と「ふくらみ」の組み合わせ(そもそも「ふくらみ」って、なんというか、とても官能的だよね……)、でもそれじゃあだれしもが「ふくらみ」を使えば官能的になるのかといえばそうではなくって、きっと窪美澄さんだからこそこのタイトルだけでどきどきさせられるわけで、わたしはこの「よるのふくらみ」という言葉を思いつくのはまさに「女性ならでは」だと思う。

 意識してそうしてきたわけではないが、本を読むとき、わたしは女性が書いた作品を手に取ることが圧倒的に多い。たぶん女性のもつやわらかみが好きなんだろうけど、表現ににじみでる繊細さや自分の近くに感じるような比喩とか描写とか、共感とはまた違うような気がするんだけど、作品がすぐとなりにあるような、そんな感覚になることが多い。
「よるのふくらみ」は、そういう近さを感じる。官能的で、タイトルだけでなんだかどきどきするんだけど、でもすぐ触れられそう。よるのふくらみ、巨きな魅惑を持っている。タイトルのことしか言ってなくて申し訳ないのだけど、なかみがあってこそのこのタイトルでもあると添える。


 第20回R-18文学賞の結果にともない、小説新潮5月号はR-18文学賞特集だった。さいこうだった~……。受賞された宮島末奈さんの「ありがとう西武大津店」、なんと大賞、読者賞、友近賞、史上初の三冠受賞ということで、す、すごい。R-18文学賞は最終候補が発表されると作品が期間限定でウェブ上に公開されるので、そのとき一度読んでいたのだけど、ほかの作品とは「すこし違う」印象を受けた。
 コロナ渦中のことを直接書いているからか…なんとなく違う、たぶんだけど、さわやかなのだ。「ありがとう西武大津店」は女子中学生の青春小説、閉店してしまう西部大津店に毎日西部のユニフォームを着てローカルテレビの中継に映る成瀬とその友人あかりの物語。
 最終候補作、公開されたときにわたしはすべて読んだのだけど、どこかほのぐらい作品が多かった(個人的にわたしはそのほのぐらさがとても好きなのだが)。だけど「ありがとう西武大津店」は不穏さなどはなく(底抜けにあかるいわけでもないんだけど)、実は個人的には物足りなさを感じていた。けれど小説新潮であらためて読み返したとき、わたしは少し変わっている成瀬のことがなんだかとても好きになった。たぶんだけど、わたしはR-18文学賞に恋愛小説を期待していたのだと思う。でも「ありがとう西武大津店」に出てくる成瀬とあかりそれぞれの、なにかを遂げようとしたりだれかのことを思いやろうとする気持ち、友人との微妙な距離の感覚に、官能とは違うけど、わたしはやっぱりどきどきさせてもらえた。懐かしい、ではないけれどやっぱり「近く」感じるような。

 

 R-18文学賞特集では、「ラブドールはどんな夢を見るのか(都築響一)」がおもしろかった、個人的にラブドール(と生活するひと)に実は興味があるので。ただこのレポは人間がラブドールのようになって写真を撮ってもらうというもの。いろんな世界があるのだなあ、しかもお客さんは男性が多いということも書かれていて、なんだかなおどきどき。
 また、彩瀬まるさんの「なめらかなくぼみ」、これは「よるのふくらみ」と同様、タイトル……!!!!!!さいこうか~……。つまり「椅子(ソファ)に座るだけでも官能的」が描かれているわけで、おもしろかった。
 一木けいさん「駄々洩れ」、一木けいさんはずっと気になっていて未読だったのでちょうどよかった、長編で読みたいと思った。わたしは恋愛小説、とくに報われない恋愛小説が好きで、この方は、わたしの好きな報われなさを書いている気がする……!


 これからもたのしみしています、R-18文学賞。次回からは選考委員が変わりますね。
 ちなみに第20回最終候補作になった作品のなかでわたしがいちばん好きだったのは戸塚セーラさんの「悪い癖」、ひとつひとつの文章にどきどきさせれらっぱなしでした。

www.shinchosha.co.jp

www.shinchosha.co.jp