今日もめくるめかない日

尊すぎるワンチャンでウィンウィンな話(ワンルームエンジェル/はらだ)

 やべー漫画に出会ってしまった。

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 ジャンルはBLとされているけど、もし「BLだから」という理由だけで読むという選択肢をなくしているなら、もう一度読むことを検討してほしい、BLだけれども、これは人間と人間の愛のはなし、ていうか人間と天使、ていうか幸紀と天使のはなしだから…………。BLという枠超えてる、というか枠ということばをつかうのだってナンセンス、こんな、こんな物語を今まで見逃して生きてきたなんて、とわたしは思いました。

 

 実はそもそもわたしもBLには詳しくなく、はらださんという方の漫画を手に取るのもはじめて、むしろ恥ずかしながら今まで存じていなかった。知ったきっかけは、文學界1月号の「文學界書店2021」。作家たちが気になるテーマで各々10冊を選び紹介する……というコーナーで、王谷晶さんが「今年の私を支えたBL漫画10冊」として「ワンルームエンジェル」を挙げていた。
「久しぶりに漫画読んで嗚咽するほど泣いた一作」、「あまりに切なくしんどい」と紹介されていて気になっていた。

www.bunshun.co.jp

 けれどそこですぐ買ったわけじゃなくて、どこかのタイミングで買おうと思って数カ月が経ち、なにげなく読んだ雑誌「CREA」秋号「明日のためのエンタメリスト」特集で、やはり「ワンルームエンジェル」が紹介されていた(紹介者は犬山紙子さん)。短期間で二回も同じ作品が紹介されているのを見ることってあまりないので、これは読むべきと思ってこのたび購入。

crea.bunshun.jp


 ここからめちゃくちゃネタバレするので未読の方、とくにこれから読もうと思っている方は先に作品を読むことを強く強く推奨します。読んだことを前提に話をはじめるのであらすじとかもとくに説明してないよ。

 

 

 

 まず天使がかわいすぎませんか? 登場シーンの美しさなに? 初読時、刺されたあと幸紀がバリバリ元気になっているタフさに笑いました。ていうか幸紀の隠し切れないいいひとオーラとか、おっさんなのにちょっと天然なところがたまらん。だって自宅のワンルームに帰ったらいるはずない天使がいて、びっくりしてるけどあんまり顔に出てなくて羽根さわっちゃったり、なにその穏やかなやりとりかわいい。あと天使がチン毛って言った。「ひもじくて…」てかわいすぎませんか?


 なんやかんやで一緒に暮らしはじめる天使と幸紀、そうか最初から天使は「飛べるようになるまでつきあってもらっていいですか」と言ってたんだな……。

 たぶんこの作品を読んだ大体の人がそうしていると思うんですけど、読み終わったらすぐ二回目読みたくなるんですよ。そうすると、たとえば幸紀が刺されて店長がやってきたところなど、二回目になると「あっあっああああああああ゛あ゛あ゛!!!!!」ってなると思うんですよ。わたしはなりました。一回目は気にしてなかったけど、血の量が、幸紀が刺されたにしては多すぎるし、パァンて天使があらわれた音じゃなくて、落ちた音だったのかと思うとくるしくて、でもきっと幸紀にはさ、パァンが天使があらわれた音に聞こえたはずで、あっあああああ~~~~~~~~~~~~~ってこんなふうにシーンごとにもだえる。

 

 警察署から出てきたとき、すでに幸紀は天使のことをなんとなく知っているということになるわけで、だから元気がないわけで、天使を見る目がちょっと複雑そうなのがもう、くるしくてくるしくて……「警察あんまり得意じゃなくて」だけが元気のない理由じゃないじゃん、そのあと天使が「すぐお伝えしたほうがマシ」って言ったのに対して幸紀が「おまえはそうなのね…」ってつぶやくじゃないですか、一回目のとき気に留めてなかったんですけど、二回目、幸紀が天使のことを知ってしまったからこそ「いつ言うべきか」を考えているというわけで、だから幸紀はほんとうにいいやつなんですけど、このときからすでに葛藤があったんだと思うと、あああああ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!
 ていうかそのあと脈絡もなくはじめる「まんじゅうこわい」、最初は「かわいい~ほのぼの」って気持ちで読んだけど、高科さんとのやりとり知ったあとに読んだら、おい……あまりに切なすぎやしねえか……? 記憶がないのに酔っぱらうたび聞かされてた「まんじゅうこわい」の枕がぱっと出てくるんだよ……もうむり泣いてる。

 

 天使のパーカー姿かわいすぎか~~~~~!!!????
 天使が屋上から飛ぼうとするとき、いや結局飛べないんですけど、「どうしても飛ばなきゃいけないような気がして」と言っていて、無意識ながらに自分の役割というか幸紀と自分のための役割を感じているってことなんだ……ずっとここにいてって思っちゃうよ……。

 

 あり紗からの電話のシーンも好きなんですけど、ほぼ怒鳴り散らかしてるのに、合間に小声で「生きてて良かったよバカ」って言うのいとおしすぎませんか……。
 天使は幸紀が欲しい言葉をいつもくれる、それは同時に天使が生きてたころ欲しかった言葉だったんだよね、だれかが天使に言ってあげられたらよかったという言葉ばかりで、でもその記憶がないからこそ天使は幸紀にそういう言葉をあげられるわけで、おい〜〜〜〜!!!!!どこまで切なくさせれば気が済むんだよ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!エンジェル係数ってかわいすぎか~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!

 

 エアロとの喧嘩のときも切ないんですけど、あの羽根が落ちてしまうところ……ここ店長もエアロもタカコも天使の姿は見えていないと思うんですが、タカコだけは、もしかしたら幸紀と天使ふたりの後ろ姿が見えたんじゃないかって思う。まぼろしだとしても、なにかを感じていたと思う。それからタカコもいろんな葛藤と戦って、きっとタカコもタカコのくるしみがあって、それは天使が言っていた「罰」なのかもしれなくて、でもそのくるしみと生きていて、だからこそお線香をあげにきて、決して簡単な選択じゃなかったはずで、みんないろいろ間違えてしまうことあるよね、でも、間違えたからといって必ず悪になるわけじゃない、間違えることだって、あるんだよ……。気づける人になりたいよ……。
 
 天使が自分のことを知ってしまうところ、だれの目にもうつっていないところ、記憶がないにしてもしんどいことだと思うけど、でも幸紀がいたから絶望的にはならなくて、でもやっぱりさみしいとかあったんだろうなって思うと天使だきしめてやりてえ~~~~でもそれは幸紀がしてやれるから……。

 あとここの会話で幸紀がイマジナリーフレンドの可能性を示唆されたことに対して「可能性を否定しきれん」って言うんですけど、この「可能性を否定しきれない」って前に天使が言っていた言葉でもあって、口癖がうつるというか、同じ言葉を無意識のうちにつかっている感があって、二人の距離が縮まっている気がしてわたしはこのワンシーンがかなり好きです。

 

 高科さん出てくるだけで泣く。まんじゅうこわいを口にしたときの幸紀の天使を心配する顔に胸がしめつけられる……。結局なにも思い出さなくて、自分の父を「高科さん」という天使、でもその高科さんが悲しんでいる姿を見ると「すごーく悲しい」と言う天使、この「すごーく」のオンビキに、天使のいろんな思いが詰まりまくってる、「ー」の長さが、たぶん短すぎず長すぎず、とにかく「ー」に詰まっているんだ。だれがなんと言おうと天使は天使だよ……かわいい天使だよ……。

 天使が幸紀に言った「価値を見出すのは貴方」「人生なんて開き直り」「優しい言葉が欲しいでしょう」「貴方は悪くない」……本当にぜんぶ、つらかったときの天使に言える人がいればよかったのにと思わずにいられないよ……。天使悪くないよ。高科さんも悪くないよ。A君は馬鹿だよ……。


 天使のえが、お………………(倒れた)

 

「もっと笑ってほしい!」って、思うよね、わかるよ。それはすごく愛だよ。天使にも伝わってる……。「めっちゃ好き」の天使、まじ天使じゃん……いとおしすぎか?幸紀の気持ちが天使に伝わってるのは、流れ込んでるんじゃなくて、流れ込まなくてももうぜんぶ伝わってる……「めっちゃ伝わってきてる」から……!

「僕もう飛べそうだなあ」からのっ……むり。言語化むり。何億回でも泣ける。つらい。こんな、わたしですらこんなにつらいのに幸紀のつらさ計り知れないんだが……。インスタの写真一人になってるのむり……。幸紀は天使のことめちゃくちゃ大切に愛してたんだよ……。あり紗の「気持ちを共有できるやつに会いに行け」って、なんて的確で優しい言葉なんだ……。優しい言葉だよ、天使からだけじゃない、幸紀はまた優しい言葉をもらったんだよ……それはすごく素敵なことだよ……。

 

 なにかを失うとあまりに悲しみが大きくなるし、与えてもらったものはその悲しみに上塗りされる。でも高科さんも幸紀も与えてもらったものを思い出せて、それはきっと一人きりじゃできないことで、気持ちを共有できるだれかがいるからこそ思い出せることで、だって独りだと与えてもらったものを思い出しても悲しくなるだけだから、でも高科さんも幸紀もちゃんと与えてもらったものを大事にしようとして……天使はたくさん与えてたんだよ……まじで天使なんだよ……。そして幸紀も天使にたくさん、たくさん与えてたんだよ……。

 

 ここまでで涙がやべーことになってるんですけど、最後の、書き下ろしの「であい」、いやどんだけ泣かしてくるの……?こんな、たった、8ページで、え……?な、なにこの書き下ろし……?え?なにが起きたのってくらいこの8ページでわたしの心が破裂したんですけど、おい、おい、わたし生きてるかっ…?ってなるんですけど。

 

 天使のTwitterのアカウントはじゅげむじゅげむ、パスワードは「ごこうのすりきれ」、あらためて「五劫のすりきれ」を調べたんですが、

天女が時折泉で水浴びをする際その泉の岩の表面が微かに擦り減り、それを繰り返して岩が無くなってしまうまでが一劫とされ、その期間はおよそ40億年。 それが5回擦り切れる、つまり永久に近いほど長い時間のこと。(Wikipedia

寿限無 - Wikipedia

 

「もっとゆっくりでもよかったのに」とか「思ったより早かった」とかつい強がりを口にしてしまう天使、本心では幸紀が長生きすればいいってもちろん願っていたはずだけど、でもやっぱり待っているあいだはさみしさがあったと思うし、だからこそ「もっと早く来ないかな」なんて思っちゃうし、それはぜんぜん悪いやつだからじゃないし、幸紀を待つ時間はそれこそ「五劫のすりきれ」くらい、永久に近いほど長い時間に感じたんじゃないかって想像する。でも、年をとった幸紀が天使のもとにやってきて、その会えなかった時間すらも大切に思っていたっていうのが天使の笑顔でわかって、ていうか幸紀の後ろ姿だけで「悪くない人生」を送ってきたんだなっていうのがばちばちに伝わってくるのなに?よくわたしの心臓かたちを保ってると思うわ。

 互いに会えない時間が永久に近い時間だったとしても、今また幸紀と天使のままの天使にこれから楽しく暮らせる時間がおとずれて、それこそがきっと永久の時間になるんだと思ったら、ああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~もう泣きすぎて無理~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 わたしは本作品を電子書籍で買ったんですが、その特典として、書き下ろしとは別に幸紀のセリフ入りのネームが収録されていました。もちろん幸紀のセリフは想像できるからこそ天使のセリフだけでも十分に最高な仕上がりになっているんですけれども、幸紀のセリフをあらためて読んで、ほんとっああああ~~~~~~~~~~もお~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!! たのしく暮らしてくれ~~~~~~~!!!!!!!!
 ていうか第一話とこの書き下ろしのタイトルがどちらも「であい」なのがほんとうにたまらないし、QRコードのIDとパスワードが、粋すぎぃ……………倒


 とりあえず書きだすことですこしすっきりしました……まじでこういうおもしろい作品がありすぎるこの世っていったいなんなの……? 読み終わった今、たとえば「この作品を読んだから元気になった」とか「生きる希望が湧いた」とか「私も楽しく生きていこうと思う」とか、そういう気持ちはない。いやそういうことを感じる人ももちろんいると思うんだけど、わたしは単純に、天使と幸紀の物語をものすごく楽しめた、自分のことどうでもいい、こんなに純粋に作品そのものを好きになるって実は案外なくて、どうしても自分の経験とかに重ねたりとかそういうのがあると思うんだけど、わたしの入る隙間とか微塵もない、ていうか入れられない、天使と幸紀の物語でいい……。こ、こんな、こんな尊すぎるワンチャンでウィンウィンな話ほかにある?ない。