今日もめくるめかない日

2022年の読書

f:id:mrsk_ntk:20221229185647j:image

 今年読んだ本はこんなかんじ、たくさん読めましたが相変わらず新刊はあまり追えていません。次から次へとおもしろい作品がうまれていくこの世、もはや怖い。

 上半期にもベストをまとめましたが今年一年のものをあらためて。だいぶ絞ったよ! 読んだ順です。

 

 

鳩の栖/長野まゆみ

www.shueisha.co.jp

水琴窟という、庭先に水をまくと珠をころがすような安らかな音が鳴る仕掛け。操がそれを初めて知ったのは至剛の家の庭だった。孤独な転校生だった操を気遣ってくれた爽やかな少年至剛。しかし、快活そうに見えた彼には、避けがたい死が迫っていた。病床の至剛の求めるまま、操は庭の水琴窟を鳴らすのだが……。少年たちの孤独と淡い愛情、儚い命の凛々しさを描く表題作など珠玉の短編五編。

 やっぱりこの作品は外せない! 今年のはじめに読みましたがその瞬間から今年のベストになるだろうなと確信しており、やはり約一年すぎたあとでもいまだ心の奥にしっかりとたたずんでいます。短編集で、どの作品もよかったのですが表題作のよさはもう言葉にできん……。短い話のなかに感情すべてが詰まっている。絶対的な唯一無二感、うつくしさ、愛おしさ、儚さ、強さ、目に浮かぶ情景、季節がめぐりめぐってくることの喜びと切なさ……。好きなものぜんぶ詰まってました。感想書きました。


ミシンと金魚/永井みみ

ミシンと金魚 | 集英社 文芸ステーション

「カケイさんは、今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」
ある日、ヘルパーのみっちゃんから尋ねられた“あたし”は、絡まりあう記憶の中から、その来し方を語り始める。
母が自分を産んですぐに死んだこと、継母から薪で殴られ続けたこと、犬の大ちゃんが親代わりだったこと、亭主が子どもを置いて蒸発したこと。
やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が膨らみだして……
この世に生まれ落ちて、いつの日か死を迎え、この世を去る。
誰もが辿るその道を、圧倒的な才能で描き出す号泣必至の物語です。

 カケイさんという一人の人生の語り、小説においての語りというのは本当に真骨頂ともいえるものだと思うのですが、実際に全編通してその語りに耳をかたむけられるほどの作品は案外少ない(というよりきっと書くのがかなり難しいのだと思う)。しかし「ミシンと金魚」は本当にずっと読んで/聞いていられる、というかもっともっと読みたいという気持ちになるのですが、死を迎える瞬間の描写には、私も終わりを受け入れるしかなかった。生まれて、生きて、死んでゆく。これは命あるもの皆におとずれるもので、しかしそれを正しく真正面から受け入れていくことは難しい。だからこそカケイさんの語りは本物で、描き切っているという言葉が似合い、直接響いてくるのです。

 

あの子なら死んだよ/小泉綾子

note.com

 第8回林芙美子文学賞の佳作を受賞した作品。小説TRIPPERに掲載されたものを読みました。死に対する恐怖と憧れを抱きながら生きている女子高生の茉里奈。三人称作品ですがこちらも目が離せない語りで進んでいき、最初から最後まで危うい切実さがずっと描かれています。そう、私は切実さが描かれている作品が大好きで、死に対する思いを描く作品は数あれど、その作品にしか描けなかったものというのもきっと確かにあって、「あの子なら死んだよ」はそれが顕著だった。どこかにいそうな茉里奈の人物像は、けれどただ一人の茉里奈でしかないのだと思いました。そしてタイトルが本当に好き、ここ数年でいちばん好きなタイトルです。

 

おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子

『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬 隼子)|講談社BOOK倶楽部

「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。

職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。

 167回芥川賞を受賞しましたね! やったー! ほんわか表紙からは想像もつかない心ざわめくお仕事食べ物小説(←この言い方も誤解を招くよね笑)。私は芦川さんみたいなタイプがすごく嫌いでいやだ、同じ職場にいたくないと思う人間ですが、感想を検索すると「自分は芦川さんタイプ」という声もけっこう見かけて、考えればそれは当たり前のことなんだけど(自分の想像力のなさといったら)、なんというか、本当にままならないなあと思った。働いていてストレスなんてあほのようにたまりますが、私はびっくりするくらい身体に影響しないので、すぐ休んでしまう人を、いや~な気持ちで「いいな、ずるいな」などと思ってしまうのも事実。でもだれかを責めたいわけじゃないんだよ、ただ思うことがないわけじゃないんだよ、というもやもやもやもやしたものを、ストレートに描いている作品です。ちなみに私はこの作品を読んで転職をしようと決めました。押尾さんありがと! 感想書きました。

 

えーえんとくちから/笹井宏之

筑摩書房 えーえんとくちから / 笹井 宏之 著

風のように光のようにやさしく強く二十六年の生涯を駆け抜けた夭折の歌人・笹井宏之。そのベスト歌集が没後10年を機に待望の文庫化!解説 穂村弘

 風のように光のように……本当にそんな言葉がにあう方の歌集。どんなふうに世界がみえていたのだろうと圧倒される。一首一首に本当にうつくしい景色が浮かんできます。

わたがしであったことなど知る由もなく海岸に流れ着く棒
廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは
ひきがねをひけば小さな花束が飛び出すような明日をください
もうそろそろ私が屋根であることに気づいて傘をたたんでほしい

 普段は目にうつらないような無機物だって世界の一部であり、むしろ世界に必要な景色なんて本当はどこにもないのかもしれないし、だけどどんなものでも必要なものなのかもしれない、そんなふうに思います。

 

無垢なる花たちのためのユートピア/川野芽生

無垢なる花たちのためのユートピア - 川野芽生|東京創元社

地上からはるか遠く離れたところにあるという楽園を目指し、天空を旅する一隻の船。
そこでは花の名前をつけられた少年たちが、導師と呼ばれる大人たちのもとで寮生活を送っていた。最も大切なのは心の純潔さであると教えられた少年たちの暮らしは慎ましく清らかで、船の中はこの世界のどこよりも楽園に近い場所と思われた。
ある日、白菫という少年が舷から墜落する。皆が不慮の事故としてその死を悼んだが、親友の矢車菊は白菫が落ちる直前の様子を知り、彼がみずから身を投げたのではないかと疑問を持つ。だが、希望に満ち溢れたこの美しい船に、いったいどんな不幸があるというのか――親友の死のほんとうの理由を探して、矢車菊は船内の暗い場所へと足を踏み入れる。幻想文学の新鋭による初の小説集。

 今年はこの作品のよさをけっこうつぶやいてきたつもりですが伝わっていますか……!? 幻想小説でありながら綺麗なだけでない、いや裏側の醜さがあるからこその綺麗さを見せられて呆然としました。でも紡がれる一文一文はたしかにうつくしいのですよ……うつくしい文章ってそれだけで泣けるよね……この作品はうつくしさに加えて汚さもしっかりと同じくらいの分量で描かれており、そのうえでうつくしいのですよ……。感想書きました。

 

ペーパー・リリイ/佐原ひかり

ペーパー・リリイ :佐原 ひかり|河出書房新社

野中杏、17歳、結婚詐欺師の叔父に育てられている高校2年生。
夏休みの朝、叔父に300万円をだまし取られた女性キヨエが家にやって来た。
キヨエに返してやりたい、人生を変える何かをしてあげたい。
だってあたしは「詐欺師のこども」だから。

家から500万円を持ち出し、杏はキヨエと一週間限定の旅に出る。
目指すは幻の百合!

 夏!爆走!エモ!なロードノベル。夏っていいよな~~~~~私は夏の大きいところ、なんでもできる気持ちになるところ、わけもなく走り出したくなるところ、夕方はすこし切ないところ、短いところ、それゆえ特別なところが大好きです。夏の景色をそのまま切り取ったような青春小説、と言いながら残念な大人が出てきたり、きらきらした青春とは少し違うかもしれないけれど、爽快感は抜群だと思います。恩というのは厄介で、「もらったもの」に対する気持ちの置き場に迷っていた私ですが、読んだあとは素直に心が軽くなりました。感想書きました。

 

とんこつQ&A/今村夏子

『とんこつQ&A』(今村 夏子)|講談社BOOK倶楽部

真っ直ぐだから怖い、純粋だから切ない。あの人のこと、笑えますか。
“普通”の可笑しみから、私たちの真の姿と世界の深淵が顔を出す。

大将とぼっちゃんが切り盛りする中華料理店とんこつで働き始めた「わたし」。「いらっしゃいませ」を言えるようになり、居場所を見つけたはずだった。あの女が新たに雇われるまでは――(「とんこつQ&A」)

姉の同級生には、とんでもない嘘つき少年がいた。父いわく、そういう奴はそのうち消えていなくなってしまうらしいが……(「嘘の道」)

人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇を収録、待望の最新作品集!

 何回かこの作品の感想を書くぞと意気込みましたができず結局時間が経ってしまいました。今村夏子さんの作品を読んだことのある方ならわかってくれると思うのですが、感想書くのめちゃくちゃむずかしくないですか。ちょっとあらすじを説明しようとするのも厳しくないですか。私はこの作品を妹に貸したのですが、読む前に「どんな話?」と聞かれて「ちゅ、中華料理店の話……」としか返せませんでした。なにも伝わらねえ……。ただひとつ言えるのは、さすが今村夏子さんとでも言いますか、この人間の描き方はもはやホラーです。このいかにもノートな(一見)かわいらしい装丁に惹かれ気軽に手に取って、脳がバグる人続出しているのではないでしょうか。

 

汝、星のごとく/凪良ゆう

『汝、星のごとく』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部

その愛は、あまりにも切ない。

正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。

ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

 か、櫂~~~~~~~~~~~~!!読んだあとしばらく経っても櫂ロス、思い出すと胸がくるしい、私は…私は……この作品を読んでぼろくそに泣きました。私も田舎出身なので、田舎の窮屈さ、やりづらさは身に染みてわかり、そして東京の忙しなさや魅力もわかるので暁海と櫂どちらのパートも心が休まることがなく、それでも二人が星のかがやきをどうか忘れませんように…花火一緒に見て…の気持ちでした。北原先生のスピンオフもしっかり読みました。願わくば尚人のスピンオフもください……オェ…ッ(嗚咽)

 

植物少女/朝比奈秋

publications.asahi.com

 小説TRIPPERで読みました。植物状態である母、自分が生まれたときからその状態だったから、母の植物状態前の姿をうまく想像できない美桜。二人の関係性や美桜の心情、ありのままという状況を丁寧に描いている作品。母が植物人間という設定だけ見れば、あざとくわざとらしい物語になりそうなところ、安易に物語化させない、美化させない。これが本当にすごい。美桜の普通、父や祖母の普通、呼吸をし生きているということを実感する描写の筆致が圧倒的で、とにかく胸を打たれました。美しい話にさせず、美しさを感じさせる作品です。感想書きました。
 そして一月に単行本出るみたいです!買うよ!!

緑と楯 ロングロングデイズ/雪舟えま

緑と楯 ロングロングデイズ 雪舟えま歌集【短歌研究文庫】 - 短歌研究社

短歌新文庫シリーズに忽然とBL歌集出現!

学生服から白髪を超えて(ロングロングデイズ)、
金太郎飴のごとく、どこを切っても愛の日々! 

表題作369首に加え、
歌集『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』269首を併録した2部構成。
「解説」に代えて、作品世界を表現した漫画家・紀伊カンナ氏による描き下ろしイラストを収録。

 愛は世界を救うってもしかして本当のなのかもしれない……と本気で思ってしまう。だって愛がほとばしっている……。え~~~~~んもう私は緑と楯が大好きだ~~~~~~好きすぎてどうにかなるよ~~~~~~~一首一首が本当にいいんだよ~~~~!!!

立てぬほど小さな星にいるみたい抱きしめるのは倒れるときだ
ねえ次はどこに住もうか僕たちはお互いの存在が家だけど
おれの中に勝手に花を作るなよ勝手に野うさぎを放すなよ
奇跡とは君がかすかに首かしげ散歩を延長するか訊くとき
ああ宇宙ふたりから生まれたごみをふたりで捨てにゆく喜びよ

 ああ宇宙……ありがとう……来年も生きる……。感想書きました。

 

フィールダー/小谷田奈月

フィールダー/古谷田 奈月 | 集英社 ― SHUEISHA ―

迎え撃て。この大いなる混沌を、狂おしい矛盾を。
「推し」大礼賛時代に、誰かを「愛でる」行為の本質を鮮烈に暴く、令和最高密度のカオティック・ノベル!

総合出版社・立象社で社会派オピニオン小冊子を編集する橘泰介は、担当の著者・黒岩文子について、同期の週刊誌記者から不穏な報せを受ける。児童福祉の専門家でメディアへの露出も多い黒岩が、ある女児を「触った」らしいとの情報を追っているというのだ。時を同じくして橘宛てに届いたのは、黒岩本人からの長文メール。そこには、自身が疑惑を持たれるまでの経緯がつまびらかに記されていた。消息不明となった黒岩の捜索に奔走する橘を唯一癒すのが、四人一組で敵のモンスターを倒すスマホゲーム・『リンドグランド』。その仮想空間には、橘がオンライン上でしか接触したことのない、ある「かけがえのない存在」がいて……。

児童虐待小児性愛ルッキズム、ソシャゲ中毒、ネット炎上、希死念慮、社内派閥抗争、猫を愛するということ……現代を揺さぶる事象が驚異の緻密さで絡まり合い、あらゆる「不都合」の芯をひりりと撫でる、圧巻の「完全小説」!

 私たちがかかえる不都合さ、矛盾、ずるさなんかを思いきりあらわにして真正面から力強く描いた作品。本当いろんなテーマがてんこもりで飽きさせず、しかし筋がめちゃくちゃになることもなく、あらすじにある「完全小説」というのにもしっかり納得。今いちばん読んでおきたい小説だと思います。感想書きました。

 

 というかんじのベストです。わりと有名どころになったね。今年もおつきあいくださりありがとうございました。来年もたくさんよい作品にめぐりあいたいです!


↓上半期にまとめたベスト

mrsk-ntk.hatenablog.com

↓2021年にまとめたベスト

mrsk-ntk.hatenablog.com