連日暑い日が続きますがみなさま息災にしておりますか。いや本当にあっついね、ほんの一瞬外に出るのもためらわれる、私はもともと夏というまぶしい季節が大好きだったはずなのですが、ここ数年の酷暑でもう嫌いになりそうです、夏…。ていうか夏も人間に好かれたくないんじゃないですか、完全に我々を殺しにかかってきてるよね。
でも私はとにかく夏が大好きなはず、突き抜けていく高い青空、ふいに揺れる木漏れ日、涼しい風鈴、蚊取り線香と夕方、冷たいそうめん……私は夏を形成するものに耽溺してきました。
だからもういちど、夏が好きだって気持ちを思い出したい、思い出させて、また夏を好きにさせて……ということで夏の本を本棚から出してきたよ。という記事を、冷房をがんがん効かせ外の空気を一切合切遮断した部屋で書いています。
- なつのひかり/江國香織
- ペーパー・リリイ/佐原ひかり
- パラダイスィー8/雪舟えま
- 水の聖歌隊/笹川諒
- ここは夏月夏曜日/佐藤羽美
- みなそこ/中脇初枝
- パレード/川上弘美
- 魚たちの離宮/長野まゆみ
- 初夏ものがたり/山尾悠子
- 手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)/穂村弘
- 悲しみよ こんにちは/フランソワーズ・サガン(河野万里子訳)
- 四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦
- 海のうた
なつのひかり/江國香織
全編にみなぎる眩くけだるい夏の光…。現実感と幻想、ノスタルジーが交錯する、「私」と兄をめぐる奇妙で「不思議な真実の物語」。シュールな切なさと失われた幸福感に満ちた物語。(解説・三木 卓)
夏といえば「なつのひかり」とわりとぱっと頭に思い浮かぶものの、読んだのはずいぶん昔で正直話の内容すっかり忘れてます。あらすじを見てもあんまりピンときていない、ので今年は「なつのひかり」を読み返す夏にします!なにしろ「全編にみなぎる眩くけだるい夏の光」だしね!
しゃくなげの咲いている家を通りすぎ、三輪車の置きざりにされたアパートを右に曲がって、大通りに出る。私は、日陰のない道を歩くのが好きだ。あかるすぎて、時間がとまっているように見える。白っぽい風景はめらめらと温度をあげ、街の音をどこかに閉じこめてしまう。
(なつのひかり/江國香織)
日陰のない道、私も歩きたいよ~~~。でも今歩いたら時間どころか呼吸が止まってしまうよ……。
ペーパー・リリイ/佐原ひかり
野中杏、17歳、結婚詐欺師の叔父に育てられている高校2年生。
夏休みの朝、叔父に300万円をだまし取られた女性キヨエが家にやって来た。
キヨエに返してやりたい、人生を変える何かをしてあげたい。
だってあたしは「詐欺師のこども」だから。
家から500万円を持ち出し、杏はキヨエと一週間限定の旅に出る。
目指すは幻の百合!
高校生の杏と詐欺師に騙された38歳のキヨエの夏の一週間を描いたロードノベル。夏のじめついた夜、虫が出てキヨエがぎゃーぎゃー騒ぐところから物語ははじまり、次の場面では朝の光が乱反射した海辺を車で走っている。想像できるこの夏は、どうしてこんなにわくわくするんだろう……。夏祭りや満天の星空、めちゃくちゃにデカい月、甘いパイナップルやゼリー、全編で光る夏の気配を感じれば、私は夏を好きになる……!
片側一車線の道路はところどころゆるやかに湾曲しながら、海に張り出した岬まで続いている。真っ青な空と紺の海に挟まれた白いガードレールは、細く長い光の線となり、遥か先の消失店まで輝いている。もうしばらくは、この、朝の光に乱反射する海を見ていられそうだ。
(ペーパー・リリイ/佐原ひかり)
白いガードレール……!これがいいよね、車で走りながら流れていく景色、夏だ……!前に感想書きました。
パラダイスィー8/雪舟えま
失恋をして、仕事なんて全く手につかない。辛うじて生活を送るだけで精一杯……という人に朗報! あなたが日常に戻るまでサポートする、公的サービスがあるんです(「失恋給付マジカルタイム」)ほか。幻想文学の旗手が描く、ほんの少し不思議な世界に暮らす心優しき人々の日々。軽やかで幸福に満ちた新感覚SF短篇集。
6つ作品が入った短編集。このなかの「愛たいとれいん」という作品が、夏を舞台にしています。
木箱をあけてそうめんを一束ほどき、右の手のひらに残る黒い紙帯を見たとき、自分がこれからすることを思って笑ってしまった。帯をつまんで、眠る彼のところへゆき、この夏すこし日焼けした頬のうえをそれでひょろひょろとくすぐる。
(愛たいとれいん/雪舟えま)
「愛たいとれいん」冒頭の文、「木箱をあけてそうめんを一束ほどき」~…この描写だけで一気に私の好きな夏の空気感が思い出されて、なんだかとても幸福な気持ちになります。たぶんすこし汗かきながら眠っているんだろう彼の日焼けした頬、健康だ。すごく健康でまぶしい…。雪舟えま作品ではおなじみ緑と楯が出てくるのですが、この話は夏の朝からはじまり、そうめんを食べたあと用事で出かけた緑に対してもう会いたくなってしまった楯が、電車に乗って緑を迎えに行くという、ただそれだけの(それだけだからこそ)最高の短編です。
水の聖歌隊/笹川諒
歌集。まず表紙がいいよね、この青さ……!水に足つけたくなるね。夏は水が綺麗にみえるよね。テーマが夏ってわけでもないと思うのですが、夏の歌が多い気がするし、なんとなく私はこの歌集を夏に読みたくなります。
どこかとても遠い場所から来たような顔を思った夏のグラスに
ひとひとり殺せるほどの夕焼けを迎える地球 痛みませんか
氾濫するひかりの群れを追いかけるようにバケツを持って駆けたい
(水の聖歌隊/笹川諒)
夏は夕焼けも怖いくらい綺麗だよね、「ひとひとり殺せるほどの夕焼け」はやっぱり夏の情景だと思うんです。
ここは夏月夏曜日/佐藤羽美
こちらも歌集。タイトルが「ここは夏月夏曜日」!大好きなんです、これだけでもう。装画からなんとなく伝わるかもしれませんが、爽やかな雰囲気ではなく、蒸し暑い日の雨みたいな歌が多く、でもその空気感がすごく細かく一首一首にへばりついているんですよね。
バス停で夕方からの霧雨はぼやんと終わり西瓜の匂い
べえろんと夜風に腕を舐められる夏の終わりの葬儀であった
はい、先生ここは夏月夏曜日いついつまでも眠り続けて
将来の死体三十七体をしずかに納める教室である
(ここは夏月夏曜日/佐藤羽美)
ぼやん、べえろんといった表現がすごく好きなんですよね…。先生の葬儀を通して死を感じる歌が多いです。ずっと雨が降っているような、じめっとした湿気の空気もそれもまた夏。
みなそこ/中脇初枝
清流をまたぐ沈下橋の向こう、懐かしいひかげの家に10歳のみやびを連れ里帰りしたさわ。自分を呼ぶ声に車をとめると、そこには親友ひかるの息子で、褐色の手足が伸びすっかり見違えた13歳のりょうがいた。蜘蛛相撲、お施餓鬼の念仏、遠い記憶を呼び戻すラヴェルの調べ。水面を叩くこどもたちの歓声と、死んだ人たちの魂が交錯する川べりに、互いの衝動をさぐる甘く危うい夏が始まる。
中学生と大人の恋愛というかなり衝撃的な作品なのですが、中脇初枝さんの美しい文章で描かれる「夏」はそれはもう……。
木々の葉越しに川が見える。暮れかけて、色を澱ませ、夜の中に沈んでいこうとしている山に、どこまでも両側から挟まれながら流れる川。葉っぱに遮られてはっきりと見えないのがもどかしいけれど、ずっと青い帯が続いているのはわかる。
(みなそこ/中脇初枝)
田舎の風景と夏ってなんであんなに相性がいいんですかね…。あと中脇初枝さんの「魚のように」も好きです。(「みなそこ」も新潮社から出てるんですがなぜかページがないですね…)
パレード/川上弘美
お昼のそうめんでお腹がくちくなり、センセイとてのひらを重ねまどろむうちに、ツキコさんの心にぽっかり浮かび上がる少女の日々。ある日突然あらわれた「モノ」たちとの交わりと、胸の奥が小さく波立った教室でのあのこと。忘れかけていたけれど、ずっと心の底に残っていた不思議な出来事を、愛らしいイラストとともに描く、名作「センセイの鞄」から生まれ出たもうひとつの物語。
「センセイの鞄」が大好きなんですが、「パレード」はセンセイの鞄の番外編みたいなかんじ。夏の昼寝って、すごく変な夢を見ること多くないですか。不気味だったり不思議だったり、本当にまったく知らない世界に行ってしまう感じ、起きた瞬間の居心地の悪さ。よくわからないトリップ体験をしてしまうあの不思議な感じが「パレード」には詰まっているんです。
せみは元気ね。もう一度わたしはつぶやき、目を閉じた。しばらく目を閉じたまま起きていたが、そのうちに眠ってしまったらしい。いつまで起きていて、いつから眠ったのか、知らない。みんみんじーじー、というしぶとい鳴き声が、眠りの中にもかすかに響いていた。
(パレード/川上弘美)
小説のなかで聞く蝉の声はどうしてあんなに愛おしいんでしょうねえ……。
魚たちの離宮/長野まゆみ
夏のはじめから寝ついている友人の夏宿を、市郎は見舞いに訪れた。夏宿を愛する弟の弥彦。謎のピアノ教師・諒。盂蘭盆の四日間、幽霊が出ると噂される古い屋敷にさまよう魂と少年たちとの交感を描く。
夏宿で「かおる」、盂蘭盆、古い屋敷……。えっもうこれだけで夏を好きになっちゃうじゃないですか。「うらぼん」ってなぜこんなに響きがいいのだろう…。というか「おぼん」「盆」これかなり美しい言葉/風習だとつねづね思っています。
彼は地面に何か白い結晶を置き、それに火を点けて眺めていた。銀とも碧ともつかない焔がゆらゝと細くたちのぼっている。少年はその烟を吸いこんだのか、市郎が近づいたときは苦しそうに咳こんでいた。たちこめているのは樟脳のにおいだ。
(魚たちの離宮/長野まゆみ)
「狐火」とか「送り火」というのもなんなんですかね、最高ですよね、なんでこれら夏じゃないと駄目なんですかね……これからもなくならない風習であるといいよね……。
八月十二日から八月十五日までの四日間、あわせて一日ずつ読むのもいいよね。
初夏ものがたり/山尾悠子
初期のファンタジー小説集『オットーと魔術師』収録の表題作品が、酒井駒子の挿絵とともによみがえる。今は亡き人が大切な人の許を訪れる、その仲立ちをするのは謎の日本人ビジネスマン、タキ氏。まばゆさと湿り気、黒塗りのリムジン、どこかでひりひりと鳴り続ける電話の音…みずみずしい初夏の空気を存分に織り込み、夏の入口にふさわしい、鮮やかな印象を残す4話。
お聞きしたいのですが最近「初夏」ありました?気づいたらただの真夏になってませんか……。夏のよいところはそう「初夏」があるところ、夏のはじまりがどんなに素晴らしいものだったかを思い出しました。夏の入口に立たず強制的に真っ盛りの部分に放り出された感が否めないのですが、初夏というのは瑞々しくてきらきらしているもののはず、初夏よ、戻ってきて……。最近読んだばかりなのですがどの話も本当によかったよ。
手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)/穂村弘
手紙魔「まみ」は「ほむほむ」こと歌人穂村弘に大量の手紙を送り、穂村弘はその手紙の中のフレーズを変形させて使ったり、そこからインスパイアされてまったく違う短歌をつくりだしたりしつつ、「手紙魔まみ」という、実在するくせに虚構でもあるあやうい存在を歌集の中に生成する。
上記の内容紹介を読んでもちょっと意味がわからないと思うのですが、実在するくせに虚構な存在「手紙魔まみ」が穂村弘に憑依して詠む短歌…ってぜんぜん伝わらないよね!?笑
意味わからないと思うのですが、なぜか読めば強制的に納得させられるというか腑に落ちるというか、完全に「手紙魔まみ」の世界に連れて行かれると思います。そういえば私は引っ越し大好き人間ですが、夏に引っ越しってしたことないかも。したいな夏の引っ越し。
恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死
出来立てのにんにく餃子にポラロイドカメラを向けている熱帯夜
午前四時半の私を抱きしめてくれるドーナツショップがないの
ぬいぐるみの口のなかには宝石がいっぱい詰まっている夏の朝
(手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)/穂村弘)
夏の景色というよりは、「こういうこと夏に考えそうだな」って感じる歌が多いと思います。
悲しみよ こんにちは/フランソワーズ・サガン(河野万里子訳)
セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ……。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。
夏というだけで舞台って整ってしまう無敵さよ……。この作品はパワーも陽気さもありながらセンチメンタルなところがすごくいいよね。
わたしは明け方から海に行き、ひんやり透きとおった水にもぐって、荒っぽい泳ぎで体を疲れさせ、パリでのあらゆる埃と暗い影を洗い流そうとした。砂浜に寝ころび、砂をつかんで、指のあいだから黄色っぽくやさしいひとすじがこぼれ落ちていくにまかせ、〈砂は時間みたいに逃げていく〉と思ったり、〈それは安易な考えだ〉と思ったり、〈安易な考えは楽しい〉と思ったりした。なんといっても夏だった。
(悲しみよ こんにちは/フランソワーズ・サガン(河野万里子訳))
なんといっても夏だった!!!!すべてを受け入れてしまうこの一文。
四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦
水没したクーラーのリモコンを求めて昨日へGO! タイムトラベラーの自覚に欠ける悪友が勝手に過去を改変して世界は消滅の危機を迎える。そして、ひそかに想いを寄せる彼女がひた隠しにする秘密……。
森見登美彦の初期代表作のひとつでアニメ版にもファンが多い『四畳半神話大系』。ヨーロッパ企画の代表であり、アニメ版『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』の脚本を担当した上田誠の舞台作品『サマータイムマシン・ブルース』。互いに信頼をよせる盟友たちの代表作がひとつになった、熱いコラボレーションが実現!
うだつの上がらない夏があったっていい、でもうだつの上がらなさをゆるしてくれるのはやっぱり冬より夏。どうして夏ってだけで楽しく完璧になっちゃうんだろう!?(冬は冬で完璧になるのですが)
京都の夏、我が四畳半はタクラマカン砂漠のごとき炎熱地獄と化す。生命さえ危ぶまれる過酷な環境のもとにあって、生活リズムは崩壊の一途を辿り、綿密な計画は机上の空論と化し、夏バテが肉体的衰弱と学問的退廃に追い打ちをかける。
(四畳半タイムマシンブルーズ/森見登美彦)
いまこの瞬間の夏にいちばん近しいのはおそらくこの作品……炎熱地獄だよ。京都の暑さ本当にやばいのでは……。クーラー絶対ぶっ壊さないようにね……!!!!!
海のうた
海に来れば海の向こうに恋人がいるようにみな海をみている――五島諭
どこから開いても〈海〉がひろがる、はじめて短歌に触れるひとにむけた、とっておきの100首を集めました。
あかるい海、くらい海、まぶしい海、やさしい海、こわい海、はげしい海、さみしい海……100人の歌人がうたった、わたしだけの海のうた。巻末には、収録歌の著者紹介と出典リストを収録。
この一冊から、お気に入りの歌人を見つけてみてください。
なんと100人の歌人による海の短歌アンソロジー! めっちゃ豪華。私の大好きな雪舟えまさんの歌もありました(最高だったよ)。私は夏も大好きだけど、海も大好き。海の近くに住んでいたからかな。海は季節問わずいいものですが、夏に眺める海には本当に元気をもらえます。文句なしに輝いているのだもの。
ここまで書いて思いましたがやっぱり夏ってすごくいい季節なんですよ、私は夏が好きだ!!!!!!でも酷暑はどうしても耐えきれないので、温暖化対策することにします。殺しにかかってこない程度の、私の好きな「夏」を絶対に取り戻して見せる!という謎の決意をしてこの記事を締めくくることにします。
みなさんが好きな夏の本もよかったら教えてくださいな、年がら年中夏の本を欲してるので!
7/25追記。はてなブログのトップページ「きょうのはてなブログ」でこの記事紹介してもらいました!(いつもありがとうございます)
Twitterにも以下のように投稿したのですが「#夏の本」のハッシュタグはびっくりするほど集まっていません(自分の拡散力のなさよ…)
もしこの記事を読んでくれた方、もし夏の本教えてやってもいいよという方、べつにこのタグじゃなくても全然いいのですがよければあなたの好きな夏の本を教えてください!!!
本棚にある夏の本をまとめました〜☀️#夏の本
— 村崎 (@mrskntk3511) 2024年7月21日
なんかこういうタグで夏の本集まらないですか……この夏を乗り切るための本をおくれ〜〜〜そして毎日暑いからみんな本当に気をつけてね!!
もういちど夏を好きになりたい夏の本 - ゆめもすがら https://t.co/QuaTrEo0IP