なんと梅雨が明けたらしいです(私は関東住まい)。毎日あっつい、あつすぎる。夏のはじまりはいつだって美しくきらきら輝いているイメージですが、実際外を歩いていると、まぶしいものを感じている場合じゃないよね。夏の写真とか絵とかみてるだけ、文を読んでいるだけで満足しそう。みなさん熱中症など気をつけてね、ほんとうに。
さて暑くても寒くても私のやることはとくに変わらず、今年も仕事するか本読むか、しかやることない。そんなわけで上半期に読んでとくによかったものをまとめました。読んだ順、新刊以外もあります(というか新刊のほうが少ないかも)。
日本文学全集03
竹取物語(森見登美彦訳)/伊勢物語(川上弘美訳)/堤中納言物語(中島京子訳)/土左日記(堀江敏幸訳)/更級日記(江國香織訳)
言わずと知れた日本文学全集シリーズですが、みてください!この訳者の豪華さ!これは間違いないと思っていたら本当に間違いなかった! 少しお高めシリーズですが、3巻に入っているのはどれも短編〜中編(というのかな?)、読みやすくユーモアあふれる現代語訳でとてもたのしく読めるはず。「竹取物語」をあらためて読んだらかぐや姫は天上のおもしれー女、しかし最後はしっとり切なく美しく締められています。伊勢物語の和歌の訳はどれもうっとり(川上弘美さんとの相性ばつぐんすぎませんか)、中島京子さんの堤中納言物語は、登場する和歌をすべて五七五七七で現代語訳…!土佐日記は原文にならいすべてかな、慣れるまで少し時間がかかるけれどいつのまにか紀貫之がみた景色が浮かんでくる、そして江國香織さんの更級日記にはきゅん、「まどろまじ」を「絶対寝ないもん」と訳すあたりたまらないですね。
君がいない夜のごはん/穂村弘
文春文庫『君がいない夜のごはん』穂村弘 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
エッセイ。いやめちゃくちゃおもしろいです、穂村弘さんってすごくかわいいというか、チャーミングな人じゃないですか? 食べ物にまつわるくすっと笑えるエピソードがてんこ盛り、私がとくに好きなのは「体重計に乗るときは京極夏彦さんの著作を持つ」という話。これだけでおもしろいですね。
父と私の桜尾通り商店街/今村夏子
「父と私の桜尾通り商店街」 今村 夏子[角川文庫] - KADOKAWA
短編集。なんだかタイトルも表紙もほんわか、もしやほっこりするお話なんですかと思うかもしれませんがそこはご心配なく、しっかり今村夏子さんですよ。今村作品の感想をじょうずに書く人になりたい、もうなんというか、味わうには読むしかないんです。
はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで/雪舟えま
『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』雪舟えま|現代歌人シリーズ|短歌|書籍|書肆侃侃房
はーはーどころか、ハヒィハヒィ……ッと息切れするような歌集。
立てないくらい小さな星にいるみたい抱きしめるのは倒れるときだ
ねえつぎはどこに住もうか僕たちはおたがいの存在が家だけど
可愛さの循環のただなかにいる 人は花 花は星 星は人
ちっちゃいころ親をなんて呼んでたの 訊かないと知らないままで死ぬ
装画のはーはー姫のワンピース、たんぽるぽるじゃないですか?
鳩の栖/長野まゆみ
今のところ今年イチです。声に出したい文章のひとつひとつ、だけど声に出さずに静かに読みたい。感想書きました。
空が分裂する/最果タヒ
イラスト詩集、詩もイラストもべらぼうによいです。唯一無二感、たまりません。イラストレーター超豪華!!
混沌から生まれた言語は、やがて心に突き刺さり、はじける感性が世界を塗り替える。昨日とは違う私を、明日からの新しい僕を、若き詩人が切り開く。
あらすじより、「世界を塗り替える」というの、とてもしっくりきます。
ミシンと金魚/永井みみ
ミシンと金魚/永井 みみ | 集英社 ― SHUEISHA ―
帯にもある「花はきれいで、今日は、死ぬ日だ」、この一行はこの先わすれることがないと思う。ここに至るまでの壮絶な人生、そしてそこからをカケイさんという一人の人を崩さず描き切っているものすごい作品です。
檸檬のころ/豊島ミホ
連作短編集。みずみずしくて少し酸っぱく、檸檬のような高校時代(と、それを思い出す大人たち)の青春譚。特別なことはないけど、特別にみえる、それがいいんだよね。私の檸檬のころは振り返ってもあんまりみずみずしさはないので、やっぱりあこがれます。
きみだからさびしい/大前粟生
『きみだからさびしい』大前粟生 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
好きな人のことは理解したい、それはそうだけどなかなか難しいこともあって、それゆえ切なくてむなしくて、そういう葛藤がたくさん書かれている。ポリアモリー(複数愛者)であるあやめ、そんなあやめをどうしようもなく好きになった圭吾の恋愛小説ですが、ほかにもいろんな葛藤を抱える多くの人物が登場したりコロナ禍での生活を描いたり、とても現代の恋愛小説という感じがします。
本は読めないものだから心配するな/管 啓次郎
筑摩書房 本は読めないものだから心配するな / 管 啓次郎 著
エッセイであり読書論であり実用書であり、どういう本か?と聞かれたらうまく答えられないんだけど、タイトルのとおり「本は読めないものだから心配するな」ということを伝えてくれる本。読んだことは忘れる、でも心配するな。少なくともこの本を読んでいるあいだは、よろこびに満ちていました。装画、森のなかへ入っていくような絵ですが、まさに読めば読むほど深くに入っていく感覚だし、みたい映画や読みたい本が増えます。
たんぽるぽる/雪舟えま
【サイン本】 たんぽるぽる (短歌研究文庫) - 短歌研究社
文庫が出た!という情報を入手しその日のうちに書店へ向かい無事購入、サイン本でばくれつうれしい〜!
逢うたびにヘレンケラーに[energy]を教えるごとく抱きしめるひと
黎明のニュースは音を消して見るひとへわたしの百年あげる
手を洗いすぎぬようにね愛してたからねそれだけは確かだからね
雪よ わたしがすることは運命がわたしにするのかもしれぬこと
一生好きです。
あの子なら死んだよ/小泉綾子
第8回林芙美子文学賞佳作、小説トリッパーで読みましたがわたしこの作品だいすきです。死にたいと思うこと、生きているということ、十七歳の高校生がそれらを考えること、それ以外のことを考えてうんざりすること。これまで多くの作品で描かれてきたことなのかもしれないけれど、「十七歳の茉里奈」がここにはたしかにいて、茉里奈だからこそ感じることが書いてあって、それがあまりに切実で苦しかった。冒頭ここから読めるようです。
戦争は女の顔をしていない/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(三浦みどり訳)
今年、手に取った人も多いのではないでしょうか。昨年、文藝の聞き書き特集や逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」を読んで購入したけど、結局今年まで積んでいて、そうしたら二月がきてしまいました。戦争に心から反対しています、こうやって生活している自分を申し訳なく思うときもあるけれど、そんなふうにすごす時間こそ意味がない、できることは知ろうとすること、考えることだと思います(自分の生活や心を大切にしながら)。
N/A/年森瑛
文學界で読みました。第127回文學界新人賞受賞作、第167回芥川賞候補作。読みはじめたら止まらなくて、夜更けまで読んでいました。どこかにおさまったり、「属性」らしく言葉をつむいだりするのは、虚しい。でもときに安心でもあると私は思ってしまう。だけどやっぱり本当の、自分だけの言葉が欲しい、そう思わずにはいられない。
あくてえ/山下紘加
「文藝」夏季号掲載、山下紘加「あくてえ」試し読み|Web河出
文藝で読みました。第167回芥川賞候補作。感情を振り回される文というのがとても好きです、いろんなものがほとばしっている感じ。山下紘加さんの作品はいつも生きていて、すごく小説を読むたのしさがあると思います。読んだらぜったい感情が動くこと間違いなし、わたしは登場人物に怒り狂いました。感想書きました。
日本文学全集09 平家物語/古川日出男訳
昨年から今年にかけて平家物語の年でしたね!アニメみた!?めっちゃおもしろかったよ。アニメもよかったし、原作となった古川日出男さんの現代語訳、正直に言うと読む前は「ちゃんと読めるのか、わたし歴史とかなにも知らないけど…いっぱい人が出てきてごちゃごちゃになりそ…あと思ったより分厚いな…」と不安を抱えていましたが、まったく大丈夫でした。平家のうつくしくかなしく儚く、しかし非道な部分もしっかりある、たいへん満足する一冊だと思います。感想書きました。(アニメや大河ドラマの話もしています)
南の窓から/栗木京子
栗木京子歌集『短歌日記2016 南の窓から』(みなみのまどから) - ふらんす堂オンラインショップ
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
本屋さんでみつけた短歌日記。栗木京子さんのこの短歌がめちゃくちゃ好きで、装丁もとても素敵で、目に入った瞬間購入を決めました。買ってよかったです。
もう母の唇には差さぬ紅なれどうつくし 花や貝殻の色
未来へと債務を残し海底に核廃棄物埋められゆくや
花を摘むやうに洗濯とり込みぬソックスひとつふたつ落として
雨はれて二輪草咲く野の道は夢の入り口あるいは出口
ついでにジェントルメン/柚木麻子
『ついでにジェントルメン』柚木麻子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
元気の出る短編集。読み終わったとき、自分の生活とか、見方とかが、少し変化するはずです。大きな変化を私は望んでいないので、押しつけがましくない塩梅で勇気や元気をくれる作品がとても好きです。菊池寛の銅像がいきなりしゃべりはじめる「Come Come Kan!!」は作家をめざす人ならエールをもらえると思います。
小説新潮 2022年6月号
短編というのが好きで、いろんな作家の短編を一度に読めるものも好きで、アンソロジーというのも好きなんですけど、思い思いにいろんなジャンルの作品が集まっているものもやはり好きです。小説新潮6月号「2021年に生まれた作家たち」は、新人作家の作品、対談がぎゅっと詰め込まれておりたいへん楽しい特集でした。これを言うと、どこからの目線?という感じなのですが、新人の作品ってとてもいい意味で勢いやアラがあって、「新人にしか書けないなにか」があって、そこからうまれる筆致は他者を寄せつけない無敵感があるように思います(本当に何目線だということを書いてしまった)。とくに好きだったのは君嶋彼方さん「ヴァンパイアの朝食」、佐原ひかりさん「一角獣の背に乗って」です。感想書きました。
おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子
『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬 隼子)|講談社BOOK倶楽部
職場にもやもやしてる人〜!!我慢できてしまうくらいの理不尽や不条理を感じている人〜!!!弱いものがなぜか守られていることにイラついてしまう人〜!!!と、叫びたくなる一作です。「仕事+食べ物+恋愛小説」と紹介文にありますが、これだけ読むとなんだかほっこり恋愛小説なのかしらんとか勘違いする人がいそう、ほっこりではなく、ざわつきたい人におすすめです。第167回芥川賞候補作(7/20追記。芥川賞受賞しました)。感想書きました。
えーえんとくちから/笹井宏之
からっぽのうつわ みちているうつわ それから、その途中のうつわ
胃のなかでくだもの死んでしまったら、人ってときに墓なんですね
廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは
ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください
本を読んでいるとき、気に入った場面やフレーズがあったら写真に撮って見返せるように保存しているのですが、「えーえんとくちから」はどの短歌も本当によくて全ページ写真を撮る勢いでした。
四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦
森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』特設サイト | カドブン
最高ですね。「四畳半神話体系」と映画「サマータイムマシンブルース」のコラボ小説。「私」、小津、明石さん、樋口師匠、羽貫さん……愛すべき面々がタイムトラベラーになりわちゃわちゃする……といってもトラベルするのは「昨日」、それだけなのになんでこんなにおもしろいのでしょう、そして下鴨幽水荘からはじまる夏の京都!暑い!!アツい!!
予想以上に長くなってしまいました。もう少し厳選するつもりでしたが無理でした…(これでも厳選したの……)。読んでくださった方ありがとうございました。よい出会いがありますように!!