今日もめくるめかない日

ああ壇ノ浦(平家物語、鎌倉殿の13人のこと)

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 歴史にはまったく詳しくないのだけれど、なぜか唐突に、2022年は歴史を知る年にしようと思い立ったのが昨年の暮れ。しかし歴史を知るというのにも、自分がどんな分野に興味があるのかもよくわからない、あてもなく歴史歴史……歴史を所望……とかぼやいていたら、アニメ「平家物語」の存在を知る。

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 これがめちゃくちゃよかったのです。最終二話など涙なしではみられない。維盛……資盛……ああ壇ノ浦……諸行無常……。平家といえば平清盛の印象が強く、わたしのなかでは「平家は悪!」みたいなイメージしかなかったんですが、実際に清盛はなかなかの悪行をしでかしているひとではあるのですが、結局清盛が亡くなったあとの平家はただただ滅びの一途を辿ってゆくしかない、というその哀れさや儚さに涙。羊文学めっちゃ聴いていました。びわ……。

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 そしてそのアニメの原作となったのが古川日出男さん訳の平家物語

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 この日本文学全集シリーズはもともとちょこちょこ集めているのですが(全巻買うまでは置き場所の問題もありかなり時間がかかりそう)、平家物語はわたしのなかでそんなに優先度が高くなくて、しかしアニメ観終わったあと即購入した。GWをつかって無事に読破でき、これはもちろんのことなんだけれど、アニメよりも平家にまつわるエピソードが盛りだくさんで、たいへんたいへん楽しんだ。
 しっかり平家物語を読んだことはなかったけれど(屋島の戦い壇ノ浦の戦いは教科書で読んだ気がするなあという記憶がかろうじて。那須与一の、ひょうふっと、が印象強いのですが、新しい訳にふれられてうれしい)、あれですね、平家にもそりゃ当然いろんなひとがいるのだよね……と思った。
 主要人物、たとえば平清盛、嫡男重盛、さらにその嫡男維盛がいて、それぞれのきょうだいがいて、それぞれの家族があって、さらに家人や乳母がいて、さらにさらにその家族がいて……と平家物語はとにかく登場人物が多く出てきて、ひとりひとりを掘り下げている。アニメではふれられていなかった流人のその後や、いろんなひとの最期、残されたひとたちのその後、実際のところの事実は今となってはわからないけれど、1000年近くもこうやって語り継がれている、ということにまず感動するし、合戦やら流罪やら粛清やら物騒なことが多いなかで、主人を敬ったり厚情をみせたりなどの人情とか愛情とかも描かれていて、歴史(それも1000年も前なのだと思うと)はフィクションのように感じられることもあるけれど、たしかにその時代に人々が生きていたのだなあと、なんだかじんとしてしまう。平家は雅な方が多いので、歌も多く残されていて、その一首一首にも、思わずはらはら涙がこぼれそうになる。

 

 それにアニメをみたあとなので、ここはあの場面だ、と情景を想像しやすく、「歴史わからん……」なわたしでも、まったく挫折することなく、むしろとにかくもっと平家のひとたちの話をくれー!というふうに読み進められた。木曾義仲が出てきたあたりからは、さらにおもしろい。

 そして壇ノ浦のつらさ。時子の言葉に手をあわせる安徳天皇……手をつなぎ入水していく平家のつわものたち……。ただただかなしい……。

 アニメでは重盛と維盛を推していた(良心があるし穏やかなひとたちだったから……)のですが、平重衡の最期を読んだとき、かなりぐっときました。お寺を(本意ではなかったとはいえ)焼いてしまい、源氏に生け捕りにされたあとは相応の罰をくだされるんですが、「こうなったら、子どもがいないことのほうがよかったのかもしれないな」と思ったりする。その時代、子を生むことは周りからも強く望まれただろうし本人も残したいと思っていたはずですが、子がいることで自分がより苦しくなるだろうし、もしも子がいたら子も苦しくなる(というかおそらく源氏に殺されてしまう)。そういうことを考えて「まだよかったな」と自分に言い聞かせるみたいな、そんなかなしいことある…?残される北の方に首を斬られる前に会える場面があるのですが、そこで「来世でお会いしましょう」と……こんなこと言ったってしょうがないんですが、源氏と平氏なかよくできなかったの…?

 

 そして今、大河ドラマも放送されていますね。鎌倉殿の13人!

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 こちらも毎週めっちゃたのしくみています。主人公は北条義時なので、源平合戦はメインではないけれど、次回放送が18話、舞台は壇ノ浦、なので今までがちょうど平家物語と同じくらいの時。なので読みながら「鎌倉殿って出てきた!」とか「義時の名前も出てきた!(ただ本当に名前がちょこっと出るくらい。時政はわりと出てきたけど行動に引いた)」とか「亀の前事件が起こっているときかもしれない」とか「きっとちょうどこのころ上総介殿が……上総介殿ー!!」とか頼朝側のことを想像できるのもよいです。

 また、鎌倉殿の13人で描かれる木曽義仲は、ただの野蛮人ではなくかなり義のある武士という感じで、めちゃくちゃ好きになったのですが、平家物語でも、なんというまっすぐな生き様なのだ……と胸打たれた。「野生があふれすぎていて滑稽なことはいろいろあった」など書かれていますが、幼いころからの仲である乳母子の今井四郎を敵に囲まれながらもさがし、互いに恥ずかしくないような死に方を選ぼうとする。どうして頼朝は義仲となかよくできなかったの……?

 そして菅田将暉さん演じる源義経がとんでもなくやばいやつで、今までの義経のイメージを完全にぶっ壊しにかかってきているんですが、平家物語を読んでいると「あれっわりと解釈一致……」というかんじでおもしろいし、梶原景時との会話にヒヤヒヤする。義経、とにかく梶原景時をめちゃくちゃ煽っていた。壇ノ浦の戦いの前、屋島の戦いなど義経はほぼ一人で片をつけるんですが、(一人というか義経の軍勢)、梶原たちは義経より少し遅れて湊に到着。そこで義経が「今ごろ着いて、いったい何にまにあうというのか。(中略)喧嘩が終わってから『はいよ』とさしだされた棒だな」とか言う。すごい馬鹿にするじゃん……。当然景時はこの言葉にものすごくムカつき、戦が終わってから頼朝に即座に報告する。なぜか弟より景時の言葉を信じる頼朝。きっと義経と景時は天地がひっくりかえってもなかよくできなかったんだろうな……。

 

 本の感想なのかアニメの感想なのかドラマの感想なのかよくわからなくなってしまったけれど、おもしろいです平家物語。このあたりから歴史の勉強していこうかな、太宰治源実朝の話を書いているので、このタイミングで再読してみようかなと思います。とりあえず「平家は悪!」のイメージでしたが、今はわりと「源氏もまったく負けてない……むしろ平家よりコワ…」という感じです。日曜日の壇ノ浦の放送がたのしみなような、しんどくなりそうな。ああ平家、ああ壇ノ浦……。