ついに2023年もあとわずか、私このあいだ「2022年もあとわずか」と書いたばかりのような、ということも去年書いた気がする。あっというまだと思っていても、たしかに一日一日を過ごしてきました。今年はみなさまどんな年でしたか、相変わらず悲しいこともたくさんありますね。来年は、どんなふうに生きていく? 私は週にひとつ映画を観る習慣をつけるのと、月はじめにひと月ごとの読書計画を立てようと思ってます。それからなるべく世界に参加したいと思います。
というわけで、という言葉はたいへん便利なのでよく使ってしまうのですが、実はなんにも「というわけで」ではない。けれど毎年恒例の、今年のベスト本を紹介します! 読んだ順です。
月面文字翻刻一例/川野芽生
もうタイトルからして好きじゃないですか、好きなんですよ。「月面文字翻刻一例」、なんて声に出したいタイトル。珠玉という言葉がとっても似合う掌編集。川野芽生さんが紡ぐ作品はいつも美しく、近づきがたく、それでもどうしても近づきたい、触れたい、ゆるされたい、そんな感想を抱きます。これまでに「この仕事してえな…」と思ったのは石並べ屋なのですが(月に行ったら月に行ったら石並べ屋をやるいまは震えてるけど/雪舟えま)、月面文字翻刻一例を読んで「月の面に文様を彫る仕事」もやってみたくなりました。でもとうてい楽な仕事ではないらしいです。
黄色い家/川上未映子
お金に翻弄される少女たちのノワール小説。貧乏であることが招いた悲しく切実な現実を描きながらも、たしかにお金では買えないかけがえのなさも手にする青春小説としての一面も。お金というのは、単体で見ればただの物質であるのに、悔しいくらい価値があるもので、お金っていったい……と読んでいてわけがわからなくなったりもしました。お金が欲しい、お金があれば、というただその思いを抱きながら花たちのとった行動を、犯罪という言葉ひとつでまとめてしまうことはできない。
そういえば近所にきれいに壁が黄色く塗られている、まさに黄色い家があるのですが、前を通るとき勝手に思いを馳せています。あの家のなかでも、アンメルツヨコヨコで大笑いするような、そういう瞬間があったりするのかなあ。
うるさいこの音の全部/高瀬隼子
単行本が出ておりますが私は文學界に掲載されたときに読みました。いやまじで本当におもしろい、もう二回目の芥川賞受賞でいいんじゃない!!!??と思いました。創作が現実を侵食していく、現実が創作を侵食していく。書いていることがすべて作家の本心なのか、いやそんなわけはないけれど、周囲からの声、うるさい音。そういったものに翻弄されていく作家の様子が描かれます。文章なのに音が聞こえてくる…!創作をする人、そして読み手として作品を楽しむ人、なんかもう全員をぶっ刺してくる作品でした。
自由研究には向かない殺人/ホリー・ジャクソン(訳 服部京子)
自由研究には向かない殺人、優等生は探偵に向かない、卒業生には向かない真実、このシリーズ最高……! ミステリとしても上質、なにより登場人物の心情を描くのが本当に丁寧で、三作目への伏線もばっちり、一体どこからどこまで考えて書いてるの……!? 主人公ピップを本当に応援したくなります。来年は前日譚が出るらしいじゃないですか、三巻目のその後も気になるところではありますが、またピップに会えるのがうれしいです!感想書きました!
回樹/斜線堂有紀
とりあえず読んでください!!!!!!!!!!!!!!!!恋人への気持ちが薄らいでいるのを自覚しているとき、愛をわかりやすく計測する方法があるならどうする!?試したくなっちゃうんじゃないですか……!?この作品はもうだれがなんといおうと最高です、私のベストです、本当に読めてよかった、読んでください!!!!!!!!以上です!!!!感想書きました!!!!
ハンチバック/市川沙央
紙の本が好き、ページをめくることが好き、紙のにおいが好き、「本好き」には紙の本へのこだわりを持つ人が多いと思います。私もです。けれど紙の本を読むとき、そこにいままで重さを感じたことはなかった。いや仮に感じたとしてもその重さがいいと思っていた。分厚さは、価値だった。その考えをすべて否定する必要はないけれど、重くて本を持つことができない人もいるということ、どうしてそのことにいままで気づいてこなかったのだろう。視界に入ってこなかったんだろう。「本好き」のみなさんは、この作品をどう読んだのですか。私は負うべき傷を負ったと思いました。そしてその傷は、まったくたいしたことのないものです。
いい子のあくび/高瀬隼子
声を大にして言いたいのですが歩きスマホをしている人全員読んでください!!!!!!!!!!!!以上です!!!!!!!!!!!!!!!!!!感想です!!!!
生きる演技/町屋良平
文藝秋号掲載、一挙550枚(!)タイトルからして読むのが少し怖くて、だってあまりにもストレートなタイトルだから。たぶん本当にいつでも本当の自分をさらけ出している人っていうのはいなくて(そもそも本当の自分ってなに?)、演じながら生きていることをどこまでも抉り出す作品。
先ほどまで言っていた本当が嘘に引っ張られてリアリティが歪むのだろう。でもあなたたちはそれでいいのかもしれない、でも私たちはフィクションを生きているわけではない現実を生きているのに?
そう私たちは現実を生きている。その現実を、演じないと生き残れない。ぜんぶ見透かされてしまいそうな、こわい小説でした。
受け手のいない祈り/朝比奈秋
文学界12月号掲載。地域で唯一となった救急センターで働く外科医の話。自分が働くところしか救急受け入れ先がないので、不眠不休で働き続けるが、同期は過労死。人の命を救うため、休むことはゆるされない。医者の休みはなぜ問題にならないのか?という問題提起をしつつも、まったく予想外のラストに着地。最初から最後まで壮絶な小説です。どうして芥川賞候補にならなかったのか、私にはよくわかりません。候補になってと祈り続けましたが受け手がいなかったもようです…………
世紀の善人/石田夏穂
すばる1月号掲載。今年いち笑った小説です。誇張なしで本当にゲラゲラ笑った。職場にいるクソみたいな上司たち、奴らは編集用ファイルを自分の手でPDF化すると死ぬ、差し入れのお菓子の包装紙を自分の手で破くと死ぬ、自分の手でお茶を用意すると死ぬ、階段を使うと死ぬ、女の言うことを聞くと死ぬ!!!!!!!!!!繊細な絶滅危惧種!!!!かんそう!!ヨメゾウ!!!
そんな感じの約10作です。読んでほしいものばかりです。みなさん来年もどうぞよろしう、よいお年をお迎えくださいね。