今日もめくるめかない日

読んだ本(2023年上半期)

 

これはすこし前の本棚



ついに2023年も折り返し(早いねえ)、みなさまいかがおすごしですか。
世界がようやく夏の様相を呈してきました。好きな季節です。

4月に一度読んだ本でよかったものをまとめたけれど、やっぱりこの時期にもまとめたい!ということで、だいたい同じ本の紹介になりますが、上半期のベストもまとめます。読んだ順です。

mrsk-ntk.hatenablog.com


月面文字翻刻一例/川野芽生



www.kankanbou.com

誰もが探していたのに見つからなかったお話たちが、
こうして本に育っていたのをみつけたのは、あなた。
────────円城塔

 第65回現代歌人協会賞を受賞した歌集『Lilith』など、
そのみずみずしい才能でいま最も注目される歌人・作家、川野芽生。
『無垢なる花たちのためのユートピア』以前の初期作品を中心に、
「ねむらない樹」川野芽生特集で話題となった「蟲科病院」、
書き下ろしの「天屍節」など全51編を収録した待望の初掌編集。

昨年川野芽生さんの「無垢なる花たちのためのユートピア」を読みその世界観に見事撃ち抜かれたわけですが、本作を読んでいる時間の多幸感といったら。掌編集というのがまたよいですね。表題作「月面文字翻刻一例」(このタイトルからして最高じゃないですか?)の冒頭、こんな一節からはじまります。

月の面に文様を彫る仕事をしている。(中略)
楽な仕事ではない。世のはじめから受け継がれた同じ文様を、線の一本も違えずに彫らなければならないのだから。

たまらないですね。
「月面文字翻刻一例」、「廃世」、「やわらかい兄」、「本盗人」、「薔薇の治世とその再来」、「抽斗」、「夏より夏」あたりがとても好きでした。うつくしく退廃したイメージ、BGMはドビュッシーの「月の光」でした。幻想小説は作品によって合う合わないが顕著に出ると思うのですが、川野芽生さんの描く幻想はとても肌に合う感じで大好きです。

 

君のクイズ/小川哲

publications.asahi.com

生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。
読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される! 
「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!

本屋大賞にもノミネートされた小川哲さんの「君のクイズ」。あるクイズ番組の決勝戦、相手の本庄絆が問題を一文字も聞かずに回答、正解し優勝するという「なんで!!?????」な展開からはじまるエンタメミステリ現代ドラマいろいろ詰め込まれた「おもしろい小説」。
問題文を聞かずに正解をするなんて八百長にもほどがある、しかしでもそんなわかりやすい八百長があるか? 荒唐無稽な冒頭からどんな着地になっていくのかと読み進めていくうちに真実が解き明かされていき、ラストは「やられた!」という爽快感。そして真実に至るまでの過程も飽きさせない。クイズプレーヤーとして生きてきた主人公三島の人生、そして私たちの人生も、クイズと大きくかかわっているのである……!!


黄色い家/川上未映子

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十七歳の夏、「黄色い家」に集った少女たちの危険な共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

600頁の大長編ですがページをめくる手が止まらず一気読み。60歳の吉川黄美子が若い女性を監禁していたというネットニュースを目にした花、黄美子という名前に強い心当たりがあった花は動揺しながらも、自分が黄美子と暮らし生きていた20年前のことを思い出していく。
母とふたり貧しい暮らしをしてきた花、そこへとつぜん母の知り合いだという黄美子さんがやってくる。紆余曲折ありながらも花は家を出て黄美子さんとスナック「れもん」をはじめて共同生活を送るようになる。
花、黄美子さん、それから花と同年代でやっぱり孤独をかかえる蘭と桃子の三人の少女たちの同居生活は、奇妙でもあるけれどときにまぶしくて、そのままみんな生きているという感じで、川上未映子さんの小説を読むといつも思うのですが、本当に目の前に彼女たちがいる、と思わされます。
お金がないというシンプルな理由から少しずつ犯罪に手を染めていく様や花がおかしくなっていくところは、怖いし悲しいしでどうしようもないんだけど、こうするしかないよな、こうなるしかないよなと腑に落ちてしまう。ひとつひとつの夏の景色とか夕方のきれいさが彼女らの青春の一部で、一方で金の価値の生々しさもあぶり出されています。
金だけど金じゃない、金の奥にあるもの、物体としての札束、金についての描写がいくつも出てきますが、それはやっぱり金で、生きるのに絶対必要で、それでも金がなくても花は誰かと一緒にいたかったのだろうし、黄美子も同じだったのかもしれない。過去を正しく思い出した花が最後にとった行動は私にとってよいものでした。

 

ディスタンス/湯浅真尋

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群像2月号で読みました。
ウイルスのストレスにより家から出られなくなった主人公に届く隣人からの奇妙な手紙。そこには「佐伯律子の背なかを蹴り飛ばし、階段から転げ落ちていく様を見届ける」ことが願いだと書かれています。
主人公にとって佐伯律子なんて知らぬ存在で、それどころか隣人の顔も名前も知らない。だけど隣人とのシンパシーを感じていて、それは互いの引きこもりにいたる理由などが似通っているから。
文通形式(それが一方的に送られるものでも)の作品好きなので楽しめました。話が進んでいくうちに自分という存在が曖昧になっていき、隣人と自分が重なるどころか隣人が自分になっていくという不可解な心理も気づけば納得させらます。きもちわるさや、作中出てきた「嫌な感じ」がずっと漂っていて、読み終わったときは主人公と一緒に疲労を感じていたんですけど、この空気感がずっと漂っているのはすごいなあと思います。


うるさいこの音の全部/高瀬隼子

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文学界2月号で読みました。
いやこれは!!!!ほんとうに!!!!名作ですよみなさん!!!!!
読み終わったとき、いや読んでいるときからずっと「うわ~~~~~~!!!!」って叫びたくてしょうがなかった。
受賞して小説家になった長井朝陽。小説を書きながらゲームセンターでも働いているのだけど、「長井朝陽」と小説家としての「早見有日」は別の人間(人格)であるのに、周りからは長井朝陽の小説として読まれ、長井朝陽に興味を持たれる違和感が描かれています。「長井朝陽」と「早見有日」は別の人間(人格)であることは周囲にうまく伝わらない。ただその葛藤を重点的に描いているわけではなく、その違和感をだれしも持っていることを前提に、「うるさい音」のなかで長井朝陽がどんなふうに小背を書いていくか、どんな小説を書いていくかが描かれます。
その小説も、完全なる創作であったはずなのにどんどん現実が侵食してきて、長井朝陽の思想としてとらえられてしまう危うさも。
作品に出てくる考え=作家の考えと100%紐づけるのは間違っていて危ういことなのですが、そう感じられてしまうこともめちゃくちゃあるということが「うるさいこの音の全部」には書かれていて、だから友人の穂波の作家の人間性にはまったく興味がなくあくまで作品が好きという主張を「まっとう」と思う朝陽の気持ちは共感しかなかったです。
純粋に作品をたのしむ、ってこれからどんどん難しくなるのかもしれません。だけど純粋に作品を楽しみたい気持ちはあります…。

 

自由研究には向かない殺人/ホリー・ジャクソン(訳 服部京子)

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高校生のピップは自由研究で、自分の住む町で起きた17歳の少女の失踪事件を調べている。交際相手の少年が彼女を殺して、自殺したとされていた。その少年と親しかったピップは、彼が犯人だとは信じられず、無実を証明するために、自由研究を口実に関係者にインタビューする。だが、身近な人物が容疑者に浮かんできて……。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、傑作謎解きミステリ!解説=若林踏

さいっこうにおもしろかったミステリ小説。普段海外の小説あんまり読まないのですが訳もすごくわかりやすくておもしろくて……主人公ピップのキャラクターはとても愛せるし本当に応援したくなります。
真面目で公平、ユーモラスでチャーミング。基本は慎重で賢いのですが、容疑者の情報をつかむためSNSのタイムラインを遡っているとき、間違えて「いいね」を押してしまい、これじゃネットストーカーみたい汗汗と焦る一面などもある(わかる!!!)
失踪した少女アンディ、アンディの恋人の少年サル・シンが自殺したことから、サルがアンディを殺したというのが真実として残っているけど、それを信じていないピップと、サル・シンの弟ラヴィがとてもいいパートナーで、とにかくふたりをめちゃくちゃ応援していました。ふたりとも大好き。
容疑者リストがどんどん増えていくけれど犯人はぜんぜんわからず、こいつか?いやこいつか…?と犯人を当てる楽しさ、暗号解読の楽しさ、そして二転三転していく展開が続くので長編ですが中弛みがないのでまったく飽きません。邦題もいいですよね、「自由研究には向かない殺人」!

 

花に埋もれる/彩瀬まる

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彼氏よりもソファの肌触りを愛する女性。身体から出た美しい石を交わし合う恋人たち。憧れ、執着、およそ恋に似た感情が幻想を呼び起こし、世界の色さえ変容させる――イギリスの老舗文芸誌「GRANTA」に掲載された「ふるえる」から、単行本初収録となるR-18文学賞受賞作までを網羅した、著者の原点にして頂点の作品集。

生活!!!SF!!!!幻想!!!!!!!!!!!がほどよいバランスで入った短編集、そんな、そんなのって良いに決まってるじゃないですか。
だれかを思うことでうつくしい石がうまれる身体、とつぜん白木蓮になってしまった夫、おはじきのようなかたちで身体からこぼれ落ちる記憶、花が咲いて最期には朽ちてゆく人たち。この設定だけでごはん三杯以上食べられますね。そしてそこに彩瀬まるさんのやわらかでやさしく、でもときに残酷さもまじる文体ときては、良いに決まっていますね。
感情と身体、いつか忘れてゆく気持ち、でもたしかに〈いま〉ここにある気持ち、そのひとつひとつをとても丁寧に掬い取っている短編集です。
感想書きました。


化け者心中/蝉谷めぐ実

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その所業、人か、鬼か――規格外の熱量を孕む小説野性時代新人賞受賞作!
その所業、人か、鬼か――規格外の熱量を孕む小説野性時代新人賞受賞作!
江戸は文政年間。足を失い絶望の底にありながらも毒舌を吐く元役者と、彼の足がわりとなる心優しき鳥屋。この風変りなバディが、鬼の正体暴きに乗り出して――。

あ~~~いいないいな、「心中」っていいな~と歌い出したくなってしまいます(誤解をうみそうですが創作のなかでの心中が好きなんですよ)。
時代小説などほとんど(むしろゼロ?)読んでこなかった私ですが、「化け者心中」はたいへん読みやすく出てくる人物全員好きになってしまう「化け者小説」。なんでもっと早く読まなかったの私~~~!!
「だれが鬼なのか?」という謎解き要素ももちろん楽しみのひとつなんですけど、私はそこよりも役者たちの生き様に惚れこみました。


回樹/斜線堂有紀

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質・量ともに最高の短篇を生み出し続ける作家、初のSF作品集

真実の愛を証明できる存在をめぐる、ありふれた愛の顛末を描く表題作、骨の表面に文字を刻む技術がもたらす特別な想い「骨刻」、人間の死体が腐らない世界のテロリストに関する証言集「不滅」、百年前の映画への鎮魂歌「BTTF葬送」他、書き下し含む全6篇

もう、とくに説明はいらないと思いますが……ひとこと言っておくと「最高」です。ことあるごとに感想言ってきたので、もうなにも言うことが出てこないくらいですが……「ありふれた愛の顛末」ああこの言葉をみるだけで……私はこの作品に会えただけで今年に未練はない……。いやしかしなんでこんなに回樹に夢中になったのか冷静に考えたこともあります。
私は生活感のある話が好き。おおげさすぎない話が好き。自分のようなちっぽけな存在にも寄り添ってくれる話が好き。思い当たる気持ちが出てくる話が好き。植物が好き。不思議が好き。切ない話が好き。やるせない話が好き。すっきりする話が好き。爽快感のある話が好き。ままならない話が好き。そういうことでした。

感想書きました。

 

狭間の者たちへ/中西智佐乃

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保険営業所に勤める藤原は、通勤電車で見かける少女に日々「元気」をもらっていた。ある日、同じ少女を盗撮する男との奇妙な交流が始まり――。痴漢加害者の心理を容赦なく晒す表題作と、介護現場の暴力を克明に刻む新潮新人賞受賞作を収録。愚かさから目を背けたいのに一文字ごとに飲み込まれる、弩級の小説体験!

私は新潮2月号で読みましたが単行本出てるのですね!
ずっと寝不足続きのだるさを感じるような、疲労感が滲んでいる作品だと思いました。「元気が欲し」くて朝の電車で一緒になる女子高生の近くに立ち、こっそり匂いを嗅ぐ四十歳の藤原。これだけでわかると思いますがきもちわるいんですよ、もうずっときもちわるい。語り手のことをまったく好きになれないのですが、なぜか気持ちがわかってしまう場面も多く、彼の疲労感がそのまま移ってくる感じでした。
希死念慮とまではいかない、だけど毎日がなんだかしんどいって現代人は少なからず持っていると思います。死ぬまでの時間はあとどれくらいあるのか考えたら途方もなくなって、元気もなくなる。
起きて働き妻のヒステリーにつきあって(いや藤原自身も悪いんですが)、子どもの世話をして、寝て、また仕事に行く。そんな毎日の中で「元気が欲しい」と漠然と感じる気持ちはわかり、なにも救われない気持ちに私も崩れそうになりました。
女子高生を隠し撮りしたりほぼストーカー行為を働くもう一人の男との奇妙な連帯や職場での居心地の悪さ、全て宙に浮いているような、流されて生きている曖昧さが鮮明に描かれています。

 

ハンチバック/市川沙央

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私の身体は、生き抜いた時間の証として破壊されていく
「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」
圧倒的迫力&ユーモアで選考会に衝撃を与えた、第128回文學界新人賞受賞作にして、第169回芥川賞候補作。
井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす——。

上半期の話題作といえばこの作品でしょう。無傷では読めない作品でした。障碍者を「生まない」という健常者がいるなら、障碍者である自分が子供を妊娠し殺す(中絶)することでバランスを取る、という思考に行きついたときに、誰が誰を咎められるのだろうと思いました。
私は健康体であり本をふつうに読める、紙の本をめくることができる体を持ちますが、そんな「本好き」への痛烈な言葉に、私は正しい感情を持てませんでした。
ラストについてはいろいろ言われておりますが(もしかしたら単行本になったとき加筆などされているかもしれません)、私は文學界に掲載された時点での感想です。釈華の創作、あるいは「コタツ記事」であると直感的に思いました。でもそれは、そうであってほしいと思ってしまう私のずるさなのかもしれません。

 

結晶質/安田茜

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雪山を裂いて列車がゆくようにわたしがわたしの王であること
第4回笹井宏之賞神野紗希賞受賞の著者による第一歌集。

【収録歌より】
冬にしてきみのすべてに触れ得ないこともうれしく手ですくう水

髪に闇なじませながら泣きながら薔薇ばらばらにする夜半がある

戴冠の日も風の日もおもうのは遠くのことや白さについて 

死者にくちなし生者に語ることばなしあなたに降りそそぐ雪もなし 

石英を朝のひかりがつらぬいていまかなしみがありふれてゆく

心身はときに不確かで自分の存在すらあやふやになることがあります。けれどこの「結晶質」はそんな曖昧な世界にいながらも、根を張るような生活感を詠んでいるように思います。ここに在ることをやさしく実感することができるような歌が多く素敵でした。
私が好きだったのはとくにこのあたり。

ねむりとは身体のふちをめぐる舟ひとのまぶたは三日月だから

窓ガラスていねいに拭く 身が粉になるなら瑠璃色がのぞましい

月にまつわる歌をあつめたカセットを月のひかりに曝しておいた

 

あなたの燃える左手で/朝比奈秋

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ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサト。だが麻酔から醒めると、繋がっていたのは見知らぬ白人の手で――。自らの身体を、そして国を奪われることの意味を問う、傑作中篇!

麻酔から覚めると、見知らぬ他人の手になっていた。

凄い! 肉体の無意味な分断と不自然な結合が、現実の世界に重なる。
入念な構成の冒頭から最後まで、1㎜の緩みもない。凄い!
――皆川博子氏(作家)

切断され、奪われ、接ぎ合わされるのは、体なのか、国なのか、心なのか。
これは「境界」をめぐる、今まさに読まれるべき物語。
――岸本佐知子氏(翻訳家)

喪って初めて大事さが判る。身体、そして故郷。自分とは何かを問う小説だ。
――杉江松恋氏(書評家)

文藝で読みました。
左手を切断され、ハンガリーで手の移植手術を行ったアサト。理不尽に身体の一部を失う/接続されることで自分と他人の境界を探ったり、クリミア侵攻(あるいはさらに昔の歴史)~現在をなぞりながら領土を奪う/奪われることについて描かれています。故郷、祖国といった言葉はなんだか他人事のように感じることもあるけれど、それはまだ奪われたという経験がないだけだからなのかもしれない。
時間軸が行ったり来たりするので初読は少し混乱しますが、読んでいくうちに辻褄が合っていき、また最初から読みたくなります。植物少女でもでしたが「そのまま」を書く作家さんだなあと。誇張しすぎない、どこか淡々としていて、でも説明的ではなく、胸に迫ってくる力もある文章で、とても好きでした。

 

それは誠/乗代雄介

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生の輝きを捉えた芥川賞候補作
第169回芥川賞候補作に選ばれた、いま最も期待を集める作家の最新中編小説。修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、えも言われぬ感動がこみ上げる名編。

文學界6月号で読みました。
すごいですよこの作品は。なにがすごいのか私のちっぽけな語彙力ではまったく伝えられないのですが、読めばきっとこの作品が持つゆるぎない世界観に引き込まれるはずです。
ひとつひとつの場面の描き方がすごい、目の前にあるみたいというか自分もそこにいるみたいな描き方。高校生の修学旅行冒険譚。
すでに旅行が終わっていて、語り手の佐田が旅行前、旅行中のことを振り返りながら書き起こすという進み方になっているのですが、それがおもしろい。リアルタイムであったことを自身がすぐに振り返ることによって、冷静に物事を説明できている。
とはいえ誰かに対する心情や自分に向けられる言葉/微妙な気持ちなどはあまりに濃くてリアルで、あくまで修学旅行の話なんですけど修学旅行の話でとどまっているからなおいいのだと思います。とくに終盤の夕焼けの描写に痺れました。目の前に情景がひろがるって、こういうことをいうのですね。あと私は短大生のころ日野に通っていたので、坂道のくだりは共感でした。

 

 

というわけで上半期のよかった本でした!5、6冊くらいにおさめるつもりが気づいたら14作品…。いつもより文芸誌は追えた感じがしますがそうすると結局新刊が追いつかない&積読がいっこうに減らないジレンマ、どうして身体はひとつしかないのだろうと思います。

 

今週のお題「上半期ベスト本」

今週のお題「上半期ベスト◯◯」