今日もめくるめかない日

1~3月のまとめ

 椿が落ちて桜が散って、ツツジのつぼみがひらきはじめてもう四月、みなさまいかがおすごしですか。本日は夜から大雨、春の嵐というかんじ。帰りのバスで雨粒を眺めながらこの文章を書いています。
 ほんとうは昨晩のうちに書いてしまおうと思ったのだけど、金曜ロードショーがコナンの映画だったのでついみてしまっていまは翌朝。久しぶりにコナンをみましたが少年探偵団はそうとう危険をおかしている…! あとこれは一種の当たり前というか自然なことなのかもしれないけれど、コナンたちの年は変わらないのに携帯電話はスマホになっていて、冷静にそこ考えちゃいけないのはわかっているけど、なんかタイムトラベルみたいでおもしろいなと思った。
 あと昔わたし探偵になりたかったんだということを思い出したりもした。探偵になりたいといってもどうすればなれるのかもわからないので、コナンにかかわるクイズ本で知識をたくわえるだけだった。それはただのコナン博士。
 
 話がそれてしまったけれど、今年に入って読んだ本でよかったものを紹介してゆきます。この中途半端な時期に。いつもは上半期と年末にまとめているけれど、思い立ったら吉日。よい作品の紹介は、いつしたって何度したってよいのです。たまには手書きで感想書こうと最近ごぶさただったiPadでまとめてみました!字が下手なのは…ごめんなさい。

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黄色い家/川上未映子

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www.chuko.co.jp

十七歳の夏、「黄色い家」に集った少女たちの危険な共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

 物語は、主人公である花がある小さなネットニュースを見つけるところから。六十歳の女性が少女を監禁していたというニュースだった。犯人の名前に心当たりがある花は困惑しうろたえる。そのニュースをみるまで思い出さなかった自分が少女だったときのことを、花が振り返っていく…というふうに物語は進む。
 母とふたり貧しい暮らしをしてきた花、そこへとつぜん母の知り合いだという黄美子さんがやってきて、一緒に過ごすことが多くなる。そのうちふたりは家を出てスナックをはじめて共同生活をするようになる。

 花だけではなく、行き場のない少女たちが生きていくために、お金を得るために犯罪に手を染め、少しずつ「まともな世界」から遠ざかっていく。急に突き落とされるのではなく徐々に下降していく様が「しかたがない、こうするしかない」と否が応でも思わせた。だけど「まともな世界」にいなくても輝かしい時間はある、花がときたま目に移す夕方の景色や「アンメルツヨコヨコ」というワードだけでげらげら笑える時間。ノワール、クライムサスペンスでありながら、彼女たちのいろんな色がまざった「青春」も描かれているのです。

 

自由研究には向かない殺人/ホリー・ジャクソン(訳 服部京子)

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高校生のピップは自由研究で、自分の住む町で起きた17歳の少女の失踪事件を調べている。交際相手の少年が彼女を殺して、自殺したとされていた。その少年と親しかったピップは、彼が犯人だとは信じられず、無実を証明するために、自由研究を口実に関係者にインタビューする。だが、身近な人物が容疑者に浮かんできて……。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、傑作謎解きミステリ!解説=若林踏

 読む前は自由研究のために殺人を行うマッドサイエンティスト的な話かと勝手に思っていて、そしたらひたむきな高校生が、事件を解決するべく奔走する超まっすぐな話でした。高校生であるピップひとりでは事件の手がかりを得ることはそもそも難しい、そこで自由研究という手段をつかって犯人とされた少年の友人へ話を聞きにいったり、警察への聞き取りなどを行う。
 ミステリあるあるなのかもしれないけれど読んでいると全員あやしく思えてきて、この人が犯人?いや意外とこの人…?頼むこの人は最後までいい人であってくれ…!と犯人の予想、失踪した少女が残していた日記のなかにある暗号解読、チャット画面や地図などの図表、ピップのユーモラスな語り口、二転三転していく展開、とにかく楽しめる要素が多すぎる。この作品がデビュー作ってなに!? すごすぎない? 続編「優等生は探偵に向かない」も買いました。あっ探偵…!

 

百合小説コレクション wiz

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www.kawade.co.jp

実力派作家の書き下ろしと「百合文芸小説コンテスト」発の新鋭が競演する、珠玉のアンソロジー。百合小説の〈今〉がここにある。

 ほんとうに珠玉だったよ! 作家陣はアサウラさん、小野繙さん、櫛木理宇さん、坂崎かおるさん、斜線堂有紀さん、南木義隆さん、深緑野分さん、宮木あや子さん。この本ではじめて名前を知る方もいましたが、どの作品も思い思いの「百合」があり、さわやかなぶっとび青春小説もあれば1940年の第二次世界大戦下を舞台にしたずっしりと重厚な小説もあり、選挙に絶対行く彼女VS選挙に絶対行きたくない彼女のままならない小説もあり、幅広いアンソロジー。私はとくに斜線堂有紀さん「選挙に絶対行きたくない家のソファーで食べて寝て映画観たい」、坂崎かおるさん「嘘つき姫」が好きでした。

 

花に埋もれる/彩瀬まる

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彼氏よりもソファの肌触りを愛する女性。身体から出た美しい石を交わし合う恋人たち。憧れ、執着、およそ恋に似た感情が幻想を呼び起こし、世界の色さえ変容させる――イギリスの老舗文芸誌「GRANTA」に掲載された「ふるえる」から、単行本初収録となるR-18文学賞受賞作までを網羅した、著者の原点にして頂点の作品集。

 がっつりとまではいかないけれどSFや幻想好きな方ならきっとお気に召すのではないでしょうか! 私は大好きでした!!!

 だれかを思うことでうつくしい石がうまれる身体、とつぜん白木蓮になってしまった夫、おはじきのようなかたちで身体からこぼれ落ちる記憶、花が咲いて最期には朽ちてゆく人たち。短編集なのですが、どれも独特な世界観が濃厚に詰め込まれていて一篇一篇、長編を読み切ったあとのような読後感にひたれます。
 感情と身体、いつか忘れてゆく気持ち、でもたしかに〈いま〉ここにある気持ち、花に埋もれながらいろんな気持ちを思い出せます。
 こちらでも感想書きました。

 

化け者心中/蝉谷めぐ実

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www.kadokawa.co.jp

その所業、人か、鬼か――規格外の熱量を孕む小説野性時代新人賞受賞作!
その所業、人か、鬼か――規格外の熱量を孕む小説野性時代新人賞受賞作!
江戸は文政年間。足を失い絶望の底にありながらも毒舌を吐く元役者と、彼の足がわりとなる心優しき鳥屋。この風変りなバディが、鬼の正体暴きに乗り出して――。

 なんでもっと早く読まなかったんだろ…と後悔するほどおもしろかった。舞台は江戸(と聞いて敬遠される方いるかもしれませんが…!実は私も時代小説は普段読まないのでおそるおそるだったんですが…!本当にまじで読みやすいので大丈夫です)、女形の元役者であった魚之介(ととのすけ)と鳥屋の藤九郎が芝居小屋に紛れ込んだ鬼を見つけ出す物語。
 だれが鬼なのか?という謎解き要素よりも、芝居小屋「中村座」に集う役者たちの生き様に夢中になりました。いっけん自分勝手でなにを考えているのかよくわからない魚之介のことも、読んでいくうちにどんどん好きになっていき、というか最初は「なんだこいつ」とか思っていた役者のことも「あれ?好き…」となり、気づいたら全員大好きになっていました。
 創作においての「心中」がどうやら私にはツボらしく(誓い立てとか、ときめいてしまう…)、まさに命をかけて役者として生きる魚之介たちには感服。

 

うるさいこの音の全部/高瀬隼子

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www.bunshun.co.jp

ペンネームで小説を書きながらゲームセンターで働く長井朝陽。兼業作家であることが職場にひろまりはじめ──

 文學界で読みました(2023年2月号)。なんかもうとにかくおもしろすぎる、「おいしいごはんを食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子さんですが、この作品も芥川賞受賞というわけには……いかないですかね……?とつい思ってしまう。でもきっとなんらかの賞はとるはず…!
 ある賞を受賞して小説家になった長井朝陽は、ゲームセンターで働きながら執筆を続けている。小説家としての名前は「早見夕日」で、「長井朝陽」とは別の人間/人格であると思っているのに、周囲からは一緒くたにされてしまう。
 けれど朝陽の「早見夕日と自分は別」という主張はうまく届かず、作品に書かれていること=長井朝陽の思想というふうにとらえられてしまう危険性も描かれている。
 書いていくことや読まれることに対しての葛藤がずっと書かれていて、創作をしている方にはとくに響くのではないでしょうか…(それがプラスの響きになるかはわかりませんが…)。高瀬隼子さんの作品はいつも共感するというか、共感させられるというか、なんでわかってしまうんだ…という気持ちになる。言い当てられてしまったようなばつの悪さというのかな。でも言い当てられてほっとしている気持ちもある。

 ボツになるかもしれない、つまらないと言われるかもしれない、なにも届かないかもしれないし、ここになにが書かれているか分かりませんと言われるかもしれない。待っている間、いい想像は一つもできないのに、どうして気持ちいいもあるのか。二つが同時に、しかもどちらも強いままあって、共存しているしんどさで、心の前に体が負ける。
(高瀬隼子『うるさいこの音の全部』)

「うるさいこの音」は創作者にかぎらずたぶんだれもが聴こえていて、その音をまるっきり無視するのはとても難しくて、発信することの怖さをあらためて突きつけられました。もう音が聴こえなくなることなんてきっとないんだと思いつつ、なんの音も聴かずに作品を読みたい気持ちはすごくある。

 

回樹/斜線堂有紀

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www.hayakawa-online.co.jp

質・量ともに最高の短篇を生み出し続ける作家、初のSF作品集

真実の愛を証明できる存在をめぐる、ありふれた愛の顛末を描く表題作、骨の表面に文字を刻む技術がもたらす特別な想い「骨刻」、人間の死体が腐らない世界のテロリストに関する証言集「不滅」、百年前の映画への鎮魂歌「BTTF葬送」他、書き下し含む全6篇

 しばらく何度でも、ことあるごとに、すきあらば、回樹をすすめる所存であるよ。まだ四月ですけどもう今年のベストだよ!
 飛び抜けた設定と身近にある感情のバランスがまじですごい、SF短編集なのでどの作品も奇抜なアイディアがちりばめられているのですが、そこに住むのは私たちと同じ人間、だれかを愛したり愛さなくなったり嫌いになったり映画が観たかったり亡くなった人と一緒にいたかったり思いを言葉にしたかったり、動機が、なんというか、「ふつう」なんだよ、すごくいい意味で。でもどれも特別な感情が描かれているんだよ……。あんまり推しすぎてもしつこいと思われる可能性があるのはわかっている…けれどとにかくたくさんの人に読んでほしい……!!!!
 なんと表題作「回樹」は無料公開中、うおおおお~~~~~~読むしかない……!!

www.hayakawabooks.com


 読んだあとはしばらく回樹の感想を検索しまくりいいねをおしまくるおばけと化しました。

 こちらでも感想書きました。

 

 そんなかんじの七冊でした、そろそろ本屋大賞も発表されるね!私は凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」と予想します!