十二月である!
寒いのはとても苦手だ。起きるのもつらいし寒いというだけで元気がなくなってしまう。けれど、冬に読みたくなる小説をさがしてみれば、寒さも愛しくなるのではないかと思ってまとめてみることにした。べつに夏に読んだっていいのだけれど、読書は読んでいるときの環境も大事だよね。順不同です。
- すべて真夜中の恋人たち/川上未映子
- 凍土二人行黒スープ付き/雪舟えま
- みずうみ/よしもとばなな
- ざらざら/川上弘美
- 星の子/今村夏子
- 雪ひらく/小池真理子
- 岸辺の旅/湯本香樹実
- 薄情/絲山秋子
- キリンの子 鳥居歌集/鳥居
- 同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬
- 私の男/桜庭一樹
すべて真夜中の恋人たち/川上未映子
「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった――。芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。渾身の長編小説。
人付き合いが苦手で、いろんなことが不器用な主人公冬子と、なにを考えているのかつかめない三束さんの恋愛小説。せつないというよりさびしいと感じるお話です。冬の真夜中ってさびしくてとてもうつくしいのだよね…。表紙もとても素敵。
凍土二人行黒スープ付き/雪舟えま
近未来の、とある寒冷地。〈家読み〉のシガは逃亡クローンのナガノと出会う。独特の感性で注目の歌人・小説家が放つ異世界紀行譚。
とある寒い星で繰り広げられるいろんな愛の短編集。だれかとだれかが出会うって、なんて愛しいのでしょう…。作品のひとつでは、季節は冬ではなく、「冥」と呼ばれていて、徐冥、真冥などで季節が移り変わってゆくのです。これだけでもうたまらないよね。寒さって、もしかしてすごくいいものなんじゃない…?と思った。シガとナガノの表紙が最高です。
みずうみ/よしもとばなな
大好きなママが、パパとの自由な恋をつらぬいてこの世を去った。ひとりぼっちになったいま、ちひろがいちばん大切に思うのは、幼児教室の庭に描く壁画と、か弱い身体では支えきれない心の重荷に苦しむ中島くんのことだ。ある日中島くんは、懐かしい友だちが住む、静かなみずうみのほとりの一軒家へと出かけようとちひろを誘うのだが……。魂に深手を負った人々を癒す再生の物語。
話のなかでは「冬!」って感じではないのだけど(明確に季節は出ていなかったと思う)、でも冬に読みたい。表紙のイメージも強い。繊細で臆病でも、だれかと一緒にいたいとか話を聞いてあげたいとか聞いてほしいとか、そういう気持ちを感じ取れるのはやっぱり夏より冬のほうが濃いと思う。
ざらざら/川上弘美
風の吹くまま和史に連れられ、なぜか奈良で鹿にえさをやっているあたし(「ラジオの夏」)。こたつを囲みおだをあげ、お正月が終わってからお正月ごっこをしているヒマな秋菜と恒美とバンちゃん(「ざらざら」)。恋はそんな場所にもお構いなしに現れて、それぞれに軽く無茶をさせたりして、やがて消えていく。おかしくも愛おしい恋する時間の豊かさを、柔らかに綴る23の物語のきらめき。
短編集。とくに表題の「ざらざら」はお正月すぎ、仕事がはじまる前日に読みたい。それで休みを惜しく感じて、でも「よし、人に会いに行くか」などと思ったりしたい。
星の子/今村夏子
林ちひろは中学3年生。病弱だった娘を救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、その信仰が家族の形をゆがめていく。野間文芸新人賞を受賞し本屋大賞にもノミネートされた、芥川賞作家のもうひとつの代表作。
《巻末対談・小川洋子》
一度読んだらちょっと忘れられない印象的なラストシーン。あの場面だけでも、冬の切なさ、きれいさ、残酷さ、などが詰め込まれている気がする。あとやっぱり表紙のイメージが冬(自分のセンス、わかりやすいなと思う)。また、小川洋子さんとの対談もとてもよかったです。
雪ひらく/小池真理子
愛する術も、思い切る術も、ひとりで生きる術も識っている。だからこそ……。女たちの心が胸に迫る、小池真理子の恋愛作品集第3弾
短編集。表題の「雪ひらく」は恋にやぶれた聡子が父のいる実家に帰ってきて、新年を迎える……というような話なんですが、ひとりでぼうっとテレビを観ながら大晦日の夜を過ごしている場面が印象的です。年明けまでの、ゆく年くる年を観ているときのような静かな時間。
岸辺の旅/湯本香樹実
あまりにも美しく、哀しくつよい傑作長篇小説
なにものも分かつことのできない愛がある。時も、死さえも――ミリオンセラー『夏の庭』、名作絵本『くまとやまねこ』の著者が描く珠玉の物語
三年前にいなくなった夫が突然家に帰ってくる、というところからはじまる話。ただ夫は、自分の体は蟹に喰われたという。こちらも明確には季節は書かれていないと思うんですが(たぶん晩秋から冬のはじまりくらいなのかなあと思っている)、最初から最後までただよう不安定さは、夏よりも冬に読むほうが没入できる。海とかみずうみとかが出てくる話だと、冬のイメージに直結しがちなのかもしれない。
薄情/絲山秋子
地方都市に暮らす宇田川静生は、他者への深入りを避け日々をやり過ごしてきた。だが、高校時代の後輩女子・蜂須賀との再会や、東京から移住した木工職人・鹿谷さんとの交流を通し、徐々に考えを改めていく。そしてある日、決定的な事件が起き――。季節の移り変わりとともに揺れ動く主人公の内面。世間の本質を映し出す、共感必至の傑作長編。
舞台は群馬県高崎市あたりの地方都市。話のなかの季節は冬なので、たいてい雪が降っていて読んでいると寒くなる。ままならなさとか、うまくいかない人付き合いとか、自分の評判とか、あたたかくないものが淡々と描かれていくので、より寒い。色鮮やかではないけど、冬は、名前のつけられない多くのものが残されていく季節だなあと思う。
キリンの子 鳥居歌集/鳥居
歌があるから、生きられた――マスコミで話題沸騰の女性歌人、初の歌集
目の前での母の自殺、小学校中退、施設での虐待、ホームレス生活。拾った新聞で字を覚え、短歌に出会って生きのびた天涯孤独のセーラー服歌人の初歌集。解説:吉川宏志、いとうせいこう氏&大口玲子氏(歌人)推薦。
歌集。つらくなるものも多いですが、それでも出会えてよかったと思える一冊です。
水槽の魚のように粉雪を見ている家に帰れぬ友と
ほんとうの名前を持つゆえこの猫はどんな名で呼ばれても振り向く(キリンの子 鳥居歌集)
同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。独ソ戦、女性だけの狙撃小隊がたどる生と死。
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために……。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
言わずもがな……という感じもしますが、やっぱり夏より冬に読みたい。本当に圧倒されるのでみなさまぜひ…。
私の男/桜庭一樹
堕ちていく幸福を描いた衝撃の直木賞受賞作
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂
この爽やかさの一切ない仄暗い小説はやはり冬が似合う……。多くの人が寝静まった夜にひっそり夜通し読んでそのまま寝てあやしげな夢でも見たい。
おそらくまだまだあるとは思いますが、ぱっと浮かんだのはこのあたり。冬のおすすめあったら教えてください。これから来る冬にそなえて、「フーン、冬も案外いい季節ジャン」と思って乗り切りたいです。